ちくま文庫

キャラクターごとにムーミン谷の住人たちを紹介し、その魅力の源泉をさぐる『ムーミン谷のひみつ』。その刊行にあたり、自他共に認めるムーミン・ファンのお二人が、ムーミンをテーマに語りつくします。

妙に哲学的なキャラが魅力——
堀江 アニメはカラーで見ていたはずなんですが、どうもイメージがモノクロなんです。そのモノクロな感じは、色や家族構成や自然が原因ではなくて、登場人物の台詞が妙に大人びていたためじゃないかと思います。とくにじゃこうねずみとか脇の人物が、妙に哲学的なことを言う。じゃこうねずみの、「無駄じゃ無駄じゃ」とか(笑)。
冨原 原作でも言ってます。
堀江 子どもの間で流行ったんですよ。
冨原 そうなんですか。
堀江 宿題があると、無駄じゃ無駄じゃ、って言ったり(笑)。いま思うと、なんかやりなさい、頑張りなさい、という人物ばかりの風潮のなかで、「無駄じゃ」ってはっきり言う人はほとんどいなかった。
冨原 ああ、スポ根時代ですからね。
堀江 そうなんです。そこに努力というのは必ずしも報われるものじゃないというか、努力という筋とは違うところになにか別の価値の鉱脈があって、そういうところに触れるのも、人間としてすごく大事なんだと言うわけですね、節目節目に。それがニクイっていうか、一家言のある人物が出て来る。スナフキンなんかもそういうキャラクターですし。でも、いちばん好きだったのはミイだったんですよ。
冨原 アニメのミイって、いじわるだなあって思いませんでしたか。
堀江 ま、恥ずかしがり屋ですよね、ミイって。寂しがりというか。
冨原 だからつい、きついこと言っちゃう。
堀江 ただし、よく見た上で言っている。適当に動いている子じゃない。ほかの子ども向けの漫画やアニメの物語だと、ああいうキャラクターって情報屋みたいになるんですよ。何でも知ってて情報を流すという、どこかしら損得勘定で動いていて、日和見的なところがある。それとは全然違うんですよね。まっすぐないじわるだから、気持ちがいいわけです。まあ、自分が煮え切らない方だから、ああいうずばずばした物言いに憧れるんでしょうね。
冨原 たぶん、役割をわかって言ってるんですよね。そういう意味で子どもらしくないんです。出し方は子どもっぽいんだけど。
堀江 彼女はいくつなんですか。
冨原 わかんないですねえ。
堀江 老成してますよね。ミムラというお姉さんがいましたけど、僕は最初、ミイの方がお姉さんかと思いました。
 ところで、アニメでムーミンパパの声を担当していたのは、高木均という役者さんで、あんな穏やかな声なのに、映画やテレビでは、悪辣商人や好色なおじさんを演じる人なんですよ。ムーミンパパって、穏やかに見えてすごく激烈なところがあって、ときどき爆発しますよね。なんか放っておくと危ないほうに行っちゃう人で。
冨原 そうですね。ニョロニョロと……
堀江 ニョロニョロについて行っちゃう。
冨原 ムーミンパパって、ニョロニョロと紙一重なんですよ(笑)。
堀江 そういう人物の声に、そういう俳優さんを使った。これも後付けですけれど、キャスティングが絶妙だなと思いました。要するにあれは、作った声なんですよね。ほんとうはちがうわけです。原作でも、ムーミンパパってじつは何をしているかわからない、自分は役に立っていないと自分で言っちゃったり。やっぱりなんかこう、ハードボイルドな人なんですよ。
冨原 そうですね。コミックスでは、ワイルドウエストにタイムマシンで行って、「二丁拳銃のムーミンだ」と名乗るんですけど、「家族づれのムーミンパパですね」と返されてしょんぼりしちゃったりする。セルフイメージがはっきりしているわりに周りから認められなくて、ときどきそれがどうにも嫌になって、ぷいっとニョロニョロといっしょにどこかへ行っちゃう。
堀江 でもニョロニョロの自由は自由なように見えてほんとうの自由とは違うんだと、自由に見えて不自由な自由なんだと気づいたりもする。ああいうことに気づける人とそうでない人がいるとすれば、ムーミンパパは前者に属する。

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