斎藤環×福嶋麻衣子@友だち幻想

友だちは作っちゃいけない!?(後編)

精神科医とアイドルプロデューサーが『友だち幻想』を読む

2008年の刊行から10年経ってなお注目を集める『友だち幻想』(菅野仁、ちくまプリマー新書)。ひきこもりのエキスパートにしてポップカルチャーにも造詣の深い精神科医・斎藤環さんと、でんぱ組.incやわーすた、虹のコンキスタドールなどの辣腕プロデューサーである福嶋麻衣子さんに、現代の若者や子どもたちの最重要課題と言っていい〈友だち〉〈つながり〉をキーワードに、いまなぜ『友だち幻想』か?をお話しいただきました。

■友だちを無理に作る必要はない
福嶋 つながりは欲しいけど、傷つきたくないというひとが増えているなかで、われわれは何をしたらいいんでしょうね。
 そもそも、「友だち幻想」といったときに、わたしはぜんぜんそれがないんです。友だちとか別にいらないので、幻想の生じようがない(笑)。結論としては『友だち幻想』も、友だちが必要だと思ってしまっているひとに対して、実はそうでもないんじゃない?と言っているわけだから、主張は同じなんですけど。
斎藤 友だちに過剰に期待しないということですよね。福嶋さんが友だちは必要ないというのはもともとの性格もあると思うんですけど、友だちに頼ったりしないメンタルの強さもありますよね。
福嶋 メンタル強いですよー、わたし(笑)。
斎藤 その強靱さはどのようにすれば得られるんでしょうか。
福嶋 自分ではわからないですけど、たとえばあまり結果にこだわらないことでしょうか。なにかやるときにうまく行けばそれでいいし、うまく行かなかったらさっさとやめて田舎で暮らそうくらいの気持ちでいるとか。
斎藤 そういう腹のくくり方はどうしたらできるんでしょう。
福嶋 逆にみんな、なんでそんなに「仕事がなくなったら死ぬ」とか「アイドルじゃなくなったら死ぬ」って追いつまっちゃうのかがわからない(笑)。もっといろんなことに興味を持って、あれがダメならこれくらいの気持ちで生きればいいと思うんです。昔はアイドルになりたい子って、こういうことがしたいとかこういう風になりたいという夢があったと思うんですけど、いまはアイドルになりたいだけがあって、具体的な夢がない子が多いんです。
斎藤 その感じ、よくわかります。
福嶋 「なんでもいいから好きなことを言って」って言うんですけど、「えー、特にないです」とか。そんな人生、ちょーつまんなくないですか。
斎藤 ちなみに恋愛には関心はないんですか?
福嶋 ないですね。
斎藤 やっぱり。欲望の水位低下ということが一〇年前くらいから言われてますけど、ここまで来てるんですね。
福嶋 でもガチャはやるんですよ。
斎藤 そういう欲望はあるんだ(笑)。
福嶋 じゃあそのゲームが好きかというとそうでもない。やっぱり好きなものがないと強くなれないし、ダメだと思います。
斎藤 愛されたかったら愛しましょうというさっきの話と同じで、好きなものが多いひとは強くなれますよね。ただ、欲望を持て、というオーダーは一番難しいんです。うまく感染してくれるといいんですけど。ふつうに福嶋さんの生き方を見て、わたしも、とか思わないんですか。
福嶋 ぜんっぜん(笑)。「もふくさんはいつも幸せそうでいいですね」って生温く見られてる。たまに、わたしみたいになりたいです!ってガッツのある子もいるけど、一〇年やってて一人か二人くらい(笑)。上下よりはやっぱり横なのかな。つながりを持ちたいって子は多いです。
斎藤 アイドル同士はわりと仲良くなるんですか?
福嶋 わたしは必要以上に仲良くするなと言ってますね。別に仲が悪いわけじゃないし、仲いいですよ。ただみんなに一個だけ守ってほしいこととして、「ここにいる子たちは友だち同士ではなくて、仕事仲間なので、友だちにはならないでください」と言いますね。
斎藤 恋人禁止以前に友だち禁止なんだ。
福嶋 友だちになるとめんどくさいので、友だちにならないでください、ここにいるみんなは同じ目標を持った仕事仲間です、以上って。これだけは守ってもらいますね。そうしないと、すぐ関係がグズグズになるんです。
斎藤 優れたマネジメントだと思います。友だちを禁止したら、親しくならないエクスキューズもできますしね。親密さを偽装する「いじり」という名の「いじめ」も根絶できそう。
福嶋 そうそう、友だちじゃなければご飯とか誘われても断りやすくなるじゃないですか。やっぱり「友だち100人幻想」みたいな友だち至上主義は良くないですよ。
斎藤 むしろ学校では「友だち作らないほうがいい」と言ってもいいくらい(笑)。そのほうが反発して友だちが自然とできるだろうし。
福嶋 中一の最初に『友だち幻想』を読ませて、「友だちって幻想だから、作らないでください」と言う(笑)。無理して仲良くなるのをやめるだけで、生きやすくなると思いますね。
斎藤 さっきも言ったけど、全員が同時に読む必要があるので、一部を教科書に載せたりするといいんじゃないでしょうか。
福嶋 ほんと、授業でちゃんと「友だちは幻想です」と言ってくれたほうが、わたしの手間が減って助かるので、よろしくお願いします(笑)。

(五月十四日、筑摩書房にて収録。)
 

2018年8月22日更新

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斎藤 環(さいとう たまき)

斎藤 環

 1961年生。医学博士。筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、ラカンの精神分析、「ひきこもり」の治療、支援ならびに啓蒙活動。漫画・映画等のサブカルチャー愛好家としても知られる。著書に『戦闘美少女の精神分析』『家族の痕跡』『生き延びるためのラカン』『ひきこもりはなぜ治るのか』『「ひきこもり」救出マニュアル〈理論編〉』『「ひきこもり」救出マニュアル〈実践編〉』『キャラクター精神分析』『承認をめぐる病』(以上、ちくま文庫)、『社会的ひきこもり』(PHP新書)、『世界が土曜の夜の夢なら』(角川書店)、『オープンダイアローグとは何か』(著訳、医学書院)等多数。

福嶋 麻衣子(ふくしま まいこ)

福嶋 麻衣子

東京都出身。音楽プロデューサー/クリエイティブディレクター。テキトーカンパニー代表。東京藝術大学音楽学部卒業後、ライブ&バー「秋葉原ディアステージ」、アニソンDJバー「秋葉原MOGRA」の立ち上げに携わり、でんぱ組.incやわーすた、虹のコンキスタドールなどをはじめとして多くのアーティストのプロデュースを手掛ける。「もふくちゃん」の通り名を持つ。