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高校地学は「おもしろい」かつ「ためになる」!

京大人気ナンバー1教授が贈る「おもしろい」かつ「ためになる」高校地学のエッセンス。人類の居場所である地球・宇宙をまるごと学ぼう! 日本人に必須の地学の教養を詰め込んだ『やりなおし高校地学』のまえがきを公開します。

 地学は高校で教えられる理科の4科目のうちの一つです。その学習内容の中身を大まかに分けると、「固体地球」、「岩石・鉱物」「地質・歴史」「大気・海洋」「宇宙」の5分野になります。これらはいずれも人類の居場所である地球と密接に関連するものです。すなわち、地学はほかの理科3科目と比べて日常生活に最も近い科目なのです。
 いま私たちがこうやってここに居られるのは、地球という「居場所」があるからです。人類のふるさと、地球はどうやってできたのでしょうか? そして、いつまで私たちはここに居られるのでしょうか?
 地球は太陽系の一部です。8つの惑星を持つ太陽系が誕生したのは、今から約50億年も大昔のことでした。宇宙空間に漂っていた岩石や氷、チリが集まって太陽となり、その周囲に地球が回り始めました。今から46億年前の出来事です。
 太陽系に水星、金星、火星、木星など惑星ができるなか、地球にとって幸運だったのは、 大量の水があったことです。水は生命を育むうえで不可欠の物質なのです。
 水は0℃で凍り、100℃で沸騰する性質を持っています。そして水が液体の状態でいられるためには、温度が0℃と100℃の間でなければなりません。太陽に近い金星は熱すぎて、水がすべて蒸発してしまいました。
 その反対に、太陽から遠い火星は寒すぎて、凍り付いてしまったのです。すなわち、地球は偶然、太陽からほどよい距離にあったため、水が液体の状態で残りました。今から40億年も前からずっと、地表には海が大量の水をたたえてきたのです。
 そのおかげで地球にはある温度範囲の安定した環境が生まれ、生命を宿すことができました。生命誕生という今から38億年も前の事件です。
 最初に出現した生物はバクテリアのような単細胞でした。ここから多細胞生物へと進化し、さらに体から手足が出てきて脳ができ、やがて人類にまで進化しました。
 ここには厳しい宇宙空間で特異な環境が38億年間も守られてきた歴史があります。実は、生命が生まれて、一度も途絶えなかったのは、僥倖の集積と言っても過言ではありません。というのは、地球上の生物は何度も絶滅の危機を乗り越え、現在まで生き延びてきたからです。地学はこうした壮大な歴史の上に成り立つ学問なのです。

絶滅の生存者が次代の覇者に
 
さて、「古生代」「中生代」「新生代」という言葉を理科の授業で習ったことがあるでしょう。いずれも地球の歴史を区切る言葉ですが、「生」は生物、「代」は時代を表します。
 ここで「生物の時代」と表現するのは、地球の歴史は生物の種類がガラッと変わることで決められたからです。なぜ変わったかというと、その境目で生物が大量に絶滅したからです。
 たとえば、5億4000万年前に始まった古生代では、2億5000万年前に全生物種の90〜95%が死滅する大惨事が起きました。そして、生き残ったわずか5%ほどの生物が次代の覇者となって進化していったのです。古生代の次に来る中生代が恐竜の時代であったことは有名です。絶滅を生き延びたものが次代の覇者になったのです。
 その恐竜も今から6500万年前に、巨大隕石が地球に落ちて絶滅しました。高さ300mの大津波が陸を襲い、飛散したチリが日光を遮って極度の寒冷化に向かったのです。
 その過酷な条件下で生き延びたのが哺乳類で、次の新生代の覇者となって現在にいたります。人類が地球上で繁栄したのは、恐竜が滅びたからでもあるのです。
 こうした現象をひとことで言うと「地球の歴史は想定外の繰り返し」です。恐竜にとってはとんでもない想定外、しかし哺乳類にとっては千載一遇のチャンスでした。ほとんどの生物は絶滅するが、全部は死なない。必ず生き残る者がいて、それが次代を作っていきます。地球の歴史はそれを絶え間なく繰り返してきたのです。
 したがって、地球上で生物が完全に絶滅していたら人類はここに存在しない。だから、現存する生物はみな38億年の連続性を持っているのです。言い換えると、我々は全員38億歳と考えられます。
 もし20歳の学生ならば38億歳プラス20歳、60歳で還暦を迎えた人は38億歳プラス60歳なのです。こうした見方こそ人類が地球という居場所に存在する意味であり、それを教えてくれるのが地学なのです。

「大地変動の時代」に入った日本
 
 さて、日本列島は2011年3月11日に、マグニチュード9の巨大地震、つまり東日本大震災に見舞われました。このクラスの巨大地震が起きたのは平安時代以来、千年ぶりのことでした。
 東日本大震災を境に、日本列島は「大地変動の時代」に入ってしまいました。何枚ものプレート(岩板)が接する日本では、ときどき地震が起きます。日本にやってきた外国人が一番驚くのが、この地震です。
 彼らから見れば人が住んでいることを不思議に思うほどの地理的条件にあります。にもかかわらず、日本の高校・大学ではいま、「地学離れ」が進み、高校での履修率は5%と極めて低い状態です。つまり、大多数の日本人の「地学リテラシー」は中学レベルで止まったままなのです。複数のプレートがひしめく日本で生き延びるには、本当は地学の知識が不可欠です。
 これまで私は「科学の伝道師」として、専門である地学の「おもしろいところ」「ためになるところ」を学生や市民に伝えてきました。本書はそのエッセンスを一冊に詰め込んだものです。
 さらに、地学のセンター試験など大学入試に用意された問題を解きながら、じっくりと地学を学んでいきます。解答と解説の中で、地学の知識をわかりやすく織り込みました。
 具体的には、地球内部の構造から、日本列島の成り立ち、地震と噴火のメカニズム、地球温暖化問題、さらに宇宙の歴史まで解説します。
 日本人にとって必須の地学の教養を今こそ身につけていただきたいと切に願っています。 言わば、すべての日本人に捧げる「サバイバルのための地学入門」という意味を込めて書きました。

2019年9月10日更新

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鎌田 浩毅(かまた ひろき)

鎌田 浩毅

1955年、東京生まれ。東京大学理学部地学科卒業。通産省地質調査所を経て、97年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。理学博士。専門は火山学、地球科学、科学教育。京大の講義「地球科学入門」は毎年数百人を集める人気で教養科目1位の評価。著書は『地学のツボ』(ちくまプリマー新書)、『京大人気講義 生き抜くための地震学』(ちくま新書)、『座右の古典』(ちくま文庫)、『地学ノススメ』『富士山噴火と南海トラフ』 (講談社ブルーバックス)、『地球の歴史(全3巻)』『理科系の読書術』(中公新書)、『地球とは何か』(サイエンス・アイ新書)、『火山噴火』(岩波新書)、『火山はすごい』(PHP文庫)、『世界がわかる理系の名著』 (文春新書)、『一生モノの勉強法』『知的生産な生き方』(東洋経済新報社)ほか多数。

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