PR誌「ちくま」特別寄稿エッセイ

アフロヘアと暮らすということ

3Bとは付き合ってはいけない!?・2

PR誌「ちくま」12月号よりトミヤマユキコさんのエッセイを掲載します

「付き合ってはいけない」と言われる「3B(美容師・バーテンダー・バンドマン)」と付き合うどころか結婚しているわたしだが、バンドマンの夫・おかもっちゃんとの結婚をまったく悩まなかったと言えば嘘になる。でも、浮気されそうとか、収入が不安定とか、そういうことはどうでも良かった。「アフロヘアの男と一緒に暮らして、大丈夫なんだろうか?」と思ったのである。結婚相手が3Bであることより、それが特殊な髪型の3Bだということが、悩みの種だった。
 おかもっちゃんは超サラサラストレートヘアを特殊技術で痛めつけまくってふわふわのアフロにしている。バンド業界には変わった髪型のひとがずいぶんいるが、ほとんどが怖い系(スキンヘッド、モヒカン、ドレッド等)。そんな中、アフロだけが面白系にふりわけられている……ということを、彼と付き合って痛感させられた。
 東京だけでなく、世界中どこにいても、歩いているだけで見られるし笑われる。みんなの中にまぎれる、というのがとても難しいのだ。帽子をかぶっても、下の方からアフロがあふれてきちゃうし。
 配偶者が見られたり笑われたりするのは、まあ慣れるしかないとしても、厄介なのは、アフロの切れ毛である。みなさんはご存じないだろうが、アフロはいってみれば超ダメージヘアなので、すぐ切れる。夫婦ふたりとも忙しくて一週間掃除をサボろうもんなら、床に落ちた切れ毛が自然と集まり、天然のまっくろくろすけが完成する。ちなみに『となりのトトロ』に出てくるあれは、「ススワタリ」というフィクショナルな存在である。かわいい。一方、我が家のまっくろくろすけは、実在する。部屋の片隅でゆらゆらしていたりするが、別にかわいくはない。見つけ次第、容赦なく捨てる。
 わたしはわりときれい好きなので、この切れ毛地獄に耐えかね「もうやだ(泣)」となってしまいそうで、冗談でなく結婚が億劫だった時期がある。でも、かといって相手の髪型を変えたいとは思わない(そんなの暴力だ)。で、結局「珍しい種類の犬を飼った」という設定で乗りきることにした。わたしと、おかもっちゃんと、姿は見えないが切れ毛の激しい黒犬が一頭いる。そういう暮らしである。
 だが、設定の伝え方が悪かったようで、おかもっちゃん=珍しい犬ということになってしまった。怒られるかと思ったが「確かに俺は犬みたいなもんだ! ワン!」というような返事が来た。おおらかな性格で助かった。
 先日、時計の裏フタを開け、電池を入れ替えていたら、三センチほどのアフロの切れ毛が出て来た。「なんでこんなところに!? と思ってちょっと引いたけど、われわれが老人になって、仮におかもっちゃんが先に死んでも、その後もいろんな所から毛が出てくると思うとウケる」という話をしたら、おかもっちゃんがジーンとしていた。毛の話で泣くなよ……。
 このように、アフロと暮らすと一事が万事、イヤでも面白くなってしまうのだが、これって静かに淡々と暮らしたいひとにとっては地味につらいことだと思うので、もしいまアフロヘアのひとと結婚するか悩んでいる方がいたら、是非とも相談に乗ってさしあげたい。この特殊な状況を理解した上でアドバイスできるひとは、なかなかいないだろうから。

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