武器としての世論調査

【対談】菅野完×三春充希「選挙は最大の世論調査である――2019年参院選をどう見るか」

『武器としての世論調査』発売記念対談

参議院選挙が公示され、日本全国で各陣営が選挙戦を戦っています。
目下選挙活動の現場での取材を行っている著述家・菅野完さんと、各紙の世論調査結果をもとに最新の選挙情勢を発表し続けている『武器としての世論調査』著者・三春充希さんが、今回の参議院選挙の見方を語ります。
(2019年7月6日収録)

選挙こそ最大の世論調査

菅野 これは三春くんの本のテーマでもあるけど、選挙こそ最大の世論調査なんですよ。そして、世論調査である以上、聞いている側が選択肢を提出しなきゃいけない。
三春 そうですね。
菅野 にもかかわらず、与野党双方を見ていると、選挙という世論調査をしているにもかかわらず、ちゃんとした選択肢の設計ができていない。だから調査結果が民意とかけはなれたものになるし、自分の仮説どおりの結果も返ってこない。失敗する学部生の卒論のアンケートと一緒で、アンケートの設問がおかしいんですよ。おかしいのはなぜかっていうと、政治家がおかしくていいと思ってるからなんです。政治家の怠慢が最大の原因だと思う。選択肢なんてつくらなくていいと思ってるんだよ。でもそうじゃない。だって、選挙こそ世論調査なわけだから。
 今まで日本の政治がぐずぐずだったのは、与野党双方がぐずぐずの設問設計で、ぐずぐずのRDD(※)の名簿に、ぐずぐずの戦略で有権者に問いを投げかけて、「どうすか~」って聞いてるからです。そりゃ変な結果しか返ってこないよね。
 どの候補も、与党でも野党でも、適切な設問を設計するんだという意識を持って演説もビラの文言選びもデザインもやっていかないと、有権者には刺さらないですよ。勝ち負け関係なく、出てきた答えが変になってしまう。
三春 そうですね。適切な設問と選択肢というと具体的な政策のようでもありますが、個々の政策を問うというより、今の日本をこういうふうに引っ張っていくんだというビジョンを、きちんとした選択肢として打ち出してほしいです。
 現実として無党派層が多いということは、それぞれの政党が基盤を持てていないということを示しています。無党派層のほうをちらちらうかがってばかりいて、結局無党派もとれていない。
菅野 そう。
三春 いろんな人の顔をうかがってばかりで、ふわふわしたことしか言わないと、無党派層をとるという目的すら実現しないんですよね。
菅野 自分が選択肢として存在しなければいけないという自己規定がないからふわふわしてしまう。そうなると何が恐ろしいかと言うと、政治とは関係ないところで組織化している、政治に興味がある組織に、政治の側が利用されてしまうということが起こってしまうんです。政治の側が、自分が選択肢の一つであるという自信を持っていないから。支持母体に流される原因というのはそこにあるわけです。
(※RDD……Randam Digit Dialing。コンピュータで無作為に数字を組み合わせ、電話をかけて調査する世論調査の方法)

参院選の投票日まで、何をすべきか

――参院選の投票日までもう日がありませんが、野党側がこれから戦い方を変え、芯棒となる考えや、適切な選択肢を示すという可能性はないのでしょうか。
菅野 修正のしようはいくらでもあるけど、そもそもみんな、「選挙は世論調査だから、設問設計をちゃんとしなきゃいけない」っていうマインドがない。三春くんの本をあと5万回くらい音読しない限り無理だね。
三春 菅野さんは野党共闘にはかなり厳しい発言をされていましたが、ぼくはある程度肯定的な評価をしています。「今の政権・政府与党を否定する」ということでまとまるにしても、バブル崩壊以降の平成の30年の停滞を乗り越えるためにどうするかというビジョンを示し、そのビジョンのもとに共闘するというのが、世論をひきつける鍵になるのではないかと。
菅野 そうだけど、無理だろうなと思う。
三春 それをやりたいですね。
菅野 無理無理。
三春 それができない限り、このままの状態が続いたら日本は再起不能になってしまいますよ。

戦略投票と政治参加のすすめ

――有権者の側は、何をすべきでしょうか?
菅野 今回の選挙は、投票率がめちゃくちゃ低くなりそうだね。
三春 世論調査ではそういうふうに示されています。これから伸びない限り、50%をきる可能性もないとは言えません 。
菅野 与党も野党も選択肢の提示に失敗している。それは野党が不甲斐ないのではなく、両方とも馬鹿なんですよ。そこで選択肢がないから選挙に行かないっていうのは、ある意味、当然の話だと思う。普通の人間はそうなって当然なんですよ。だってつまらないもん。でも行かないと自分たちが死ぬんです、選挙っていうのは。
 じゃあ誰の名前を書いたらいいのかって言われると、本当はダメだけど、次善の次善の次善だけど、候補者の顔と名前を見ていって、こいつむかつくなって思ったヤツの、対抗馬の名前を書いてください、って最近は言うようにしてる。
 A候補のことをむかつくと思った、B候補のことをなんとも思わなかった、C候補のこともなんとも思わなかった。政党とか関係なくね。で、世論調査を見てみたら、BとCではC候補のほうが前に出ていた。そしたらC候補の名前を書いてください。
三春 戦略投票ですね。
菅野 方法は三春くんの本を見てもらってね。政党とか政策とかで考えるんじゃなく、むかついたヤツを落としそうなヤツの名前を書くってことをやればいいんですよ。
――イベントとしてはちょっと楽しくなるかもしれないですね。
三春 ぼくは、この対談を読む人がどういう人かと想像してしゃべることにすると、普段とは違うことをやってほしいと思います。これまでの選挙とは違うことをやってほしいです。
 本の中では「さまざまな政治参加」と書きましたが、自分の言葉、自分の表現というのをなにかやってほしい。それを受け取る人は少ないかもしれないし、それで一票が動くかというと必ずしも動かないかもしれないけれど。
 良い候補者がいたら、自分の言葉でそれを語ってください。自分はこういう点を応援したい、この人にはこんなに良い点があるというのを伝えてください。政党のPRを広めるだけじゃなくて、自分の言葉じゃないと、聞く人は動かないです。それを受け取る人は少ないかもしれないけど、その行動を真似する人はきっと出てきます。そして、それを見て動く人がどんどん増えていくんじゃないかと思います。一回一回の選挙というのは通過点なわけですから。
菅野 うん、そうだよね。三春くん、いいこと言ったね。
 どの選挙でもそうだけど、「この選挙で日本が変わる!」なんてあるわけない。革命じゃないんだから。何百年何十年かけて起こすべき変化を「革命だー!」って叫びながら3日とかでやっちゃうからたくさん人が死ぬんで、だから革命はやめて投票にしようねって、人類は200年前に決めたんです。変化はゆっくり、でもやり続けなきゃダメだっていうのが選挙ってものだから。
三春 一回一回の選挙を経るごとに力を獲得していきたい。なかなか厳しいですけど、そう思います。

<編集部より>
『武器としての世論調査』まえがき
立憲民主党代表・枝野幸男さんによる書評
はそれぞれリンクからお読みいただけます。

2019年7月13日更新

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三春 充希(みはる みつき)

三春 充希

1988年、神奈川県生まれ。東京大学大学院理学系研究科卒業。世論調査や選挙分析に関心をいだき、2017年より「みらい選挙プロジェクト」を単独で運営。独自の分析を公表するかたわら、一人の無党派層として社会に対する発言も行い、与野党にかかわらず様々な政治的立場の人から注目を集めている。猫と紅茶が好き。ツイッターアカウントは@miraisyakai。

菅野 完(すがの たもつ)

菅野 完

1974年、奈良県出身。著述家、活動家。
『日本会議の研究』(2016年、扶桑社)で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞奨励賞(草の根民主主義部門)、第1回大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞読者賞を受賞。
月刊誌『Gesellschaft』責任編集を務めるとともに、メルマガ「菅野完リポート」を配信中。

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