PR誌「ちくま」特別寄稿エッセイ

偏見とともに生きるということ

3Bとは付き合ってはいけない!?・3

PR誌「ちくま」1月号よりトミヤマユキコさんのエッセイを掲載します

 ある晩、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』を観ていたわたしは「その通り! よくぞ言ってくれた!」と叫んでいた。ゲイは男と女の目線を持っていて、帰国子女は変わり者で、イケメンは女遊びが激しい……そんな偏見を押し付けられた当事者というのは、息苦しさを感じていても、なかなか言い出せない。そのことがとても丁寧に描かれていたのだ。
 付き合ってはいけない3B(美容師・バーテンダー・バンドマン)も似たようなものである。特定の職業を雑にくくって〝クズ〟呼ばわりすることが、なぜか許されている。でも「そんなのネタなんだからマジになって反論する方がダサい」という空気に押されて、ふつうの暮らしを送る3Bは黙り込む。するとますますクズ3Bのエピソードばかり目立って……完全に悪循環である。
 わたしもおかもっちゃん(夫)と付き合うまでは、バンドマンってメチャクチャな生活をしてるんだろうなと思っていた。夜な夜な芸能人が集う飲み屋とかに行くんじゃないの? そんでもって黙ってても女が寄ってくるんじゃないの? みたいな。
 しかし、彼の日常は思った以上に地味だった。最高のライブを作り上げるための準備は、楽器の練習だけじゃない。関係各所へのメール連絡や、宿の手配、衣裳のメンテナンスなんかもある(おかもっちゃんは正座でスーツにアイロンをかける)。車で移動するバンドだから、お酒にだらしなくなりようがないし、レコーディングを行い新譜を売るタイミングも考えなくちゃいけないから、つねに先を見据え計画的に行動している。夢も希望もないと言われそうだけれど、この日常がなければあの非日常的なステージは完成しない。なんとなくライターになり、なんとなく原稿依頼を待ち、球が来たらとりあえず打ち返すみたいな人生を送るわたしの百倍しっかり者、それがバンドマン。おかもっちゃんだけでなく、プロで食えてるバンドマンは大抵そんな感じだ。見た目こそふざけているが、中身は企業の中間管理職みたいである。仕事に熱中しすぎて、何年も彼女がいないと嘆く人もいる。
 こんなふうにバンドマンのことを語ると、どうしてもバンドマンの欠点をあげつらいたい人が「お家をしょっちゅう留守にするじゃない? 寂しくないの?」と言ってきたりする。これについては個人差があると思うが、夫がいないときは、ひとり静かに仕事してもいいし、友だちと夜遊びをしてもいいし、スナック菓子を食べ散らかしながらジャニーズのDVDを見てもいい。そこにあるのは寂しさではなく、独身時代と変わらない自由だ。子どもがいる場合は夫が留守がちだと大変なのかもしれないけれど、どんな職種の人でも、出張で家を空けることがあるだろうし、もしずっと家にいても、オムツひとつ替えられないんじゃ意味ないしなあ。
 というわけで、バンドマンとの生活は、そのイメージとは裏腹にけっこう平和である。もちろん、わたしが辿り着いたのが、たまたま〝善き3Bの暮らす村〟だった可能性はある。村はずれには荒れ果てた土地が広がっており、おっかない3Bがウロウロしているかもしれない(『北斗の拳』のような感じで)。でも、この善き村は確かに存在するし、みんなが思っているより規模もでかい。騙されたと思って一度遊びに来てほしい。

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