問いつめられたおじさんの答え

第1回 耳の聞こえないひとは、どうやって聞くの?

漫画家のいがらしみきおさんが、子どもからの質問に答えます!

 結局、聞こえないものは聞こえないわけです。だから「もしかしたらこういうこと言ってないか」とか見当つけながら、聞いたりしゃべってる。さっきも言ったけど、人の話してることに見当つけるってむずかしいわけですよ。たいがい当たらない。
 当たらなくてトンチンカンなことを言ったりしては恥をかく。恥をかくと黙り込む。黙り込みながらも、ちょっと単語やフレーズが聞こえてくると、「今はこういうこと言ってるんじゃないか」とかまた見当つける。これが、耳が悪い人が誰かといるときにやってることなんです。
 「こんなこと言ってるんじゃないか」と見当つけるのをやめない。だけどこれが2時間3時間になると、そりゃあ続かないね。みんなが楽しそうにしゃべってるのを横目に、隣のカップルとか盗み見たりしながら、「あんまり楽しそうじゃないな、なに話してるんだろ」とかまたそこでも見当つけたり、そのうしろの中年サラリーマン4人組のほうを見ては、「なんかあの人だけ帰りたそうだな」とか、また無駄な見当をつけはじめる。そういう「見当好き」というか、「見当癖」というか、それがおじさんの正体なんじゃないか。
 それが漫画を描くときに、どういう役目を果たすのか、それはわからないね。その辺も見当つけてみるしかないわけだけど。