単行本

小鳥たちの計画のために

荒内佑『小鳥たちの計画』

PR誌『ちくま』2020年5月号より転載になります。 4月23日に発売されたばかりの荒内佑さん初めての著作『小鳥たちの計画』刊行に際して、ご自身による本書にまつわる文章をご寄稿いただきました。ウェブ公開用に〈追記〉が入っています。

 webちくまで連載されていたエッセイ「宇宙のランチ」に書き下ろし10本を加え、書籍化されることになりました(連載分も大幅に加筆修正)。タイトルは『小鳥たちの計画』。YMO「音楽の計画」、ダムタイプ「睡眠の計画」、ロブ=グリエ「ニューヨーク革命計画」、NASA「ボイジャー計画」等々、過去の偉大な計画に倣(なら)いそう名付けました。
 本の内容を一言でコピーライトするのは難しいですが、収録された各回をいくつかの系統に大別できるかと思います。自分が気に入っているものを系統別に列挙したら全体像が見えるかも知れません。

・「秘儀」(書き下ろし)
 バンドのツアーにおけるホテル生活と作曲家ジョン・ブライオンの楽曲を和訳し二重化させる。英詞の意訳系
・「イメージの本の亡霊」(書き下ろし)
 〈吉祥寺のパルコ〉で観たゴダールの新作『イメージの本』を、哲学者ジャック・デリダの「亡霊論」を使って読み解く。これと「小鳥たちのボイジャー計画」は対応関係にある
・「二十世紀の最後、ぼくはヤンキーから走って逃げていた」
 東京の郊外で生まれ育った筆者が二十世紀の最後=2000年=高校一年の時にヤンキーにボコられ血塗れになる。「東京の郊外」は頻出テーマ
・「アメリカン ベラ・ノッテ」(大量加筆)
 映画『わんわん物語』で「どうして人の顔がほとんど描かれないのか」を考える。映画にまつわる話も多数
・「コンロンナンカロウと言ってみた」
 コンロンナンカロウと言ってみる。日常系

 本の元になった連載は、本書『小鳥たちの計画』の装画とデザインを手がけた柳智之の推薦によって始まりました(決して自分から書きたいと申し出た訳ではない)。彼は僕の高校時代からの友人で、元バンドメンバーでもあります。装画は彼が発表の当てなく描き溜めていたスケッチブックから何枚か抜き取り、コラージュして着色したもの。国立駅近くのタリーズコーヒーの屋上で柳とお茶をしていたらアイデアがあるというので、彼のアトリエに行くと、あっと言う間に(およそ5分で)コラージュを作ってしまい、それを基本にデザインを進めてくれました。スケッチブックのリングが入っているのは、絵をスキャンした時に偶然写り込んだものをそのまま採用したからです。
 彼とは十代の頃から種々様々な話をして来ました。音楽のことはもちろん、映画や本、昔話から最近あったどうでもいいことまで。彼に限らず、周囲の友人たちは常にネタを持っていてとにかく話ばかりしている。『小鳥たちの計画』はその延長にあるといえるでしょう。スケッチブックに描き溜められた絵をコラージュするように、雑多な考えや与太話を切り取り、つなぎ合わせ、時には飛躍を経て書かれている。しかし、どうして柳が僕を推薦したのか。その理由は聞いたことがありません。国立駅近くの「庄や」で彼と飲んでいる時に、僕の話があんまり長ったらしいのでいっそ文章でも書いとけ、と思ったのではないか、と推測しています。

 連載「宇宙のランチ」は2016年の秋、僕が32歳になった月から始まりました。当時の原稿を読み返すと、幼形成熟としかいえない、まだ混沌とした二十代を引きずっていて、自分が何を書いているかも分からない状態だったのを思い出します。頭も混乱しているし文章の書き方も分からない。今年の秋で僕は36になり、この本には(自分から見て)昨日書き終えた原稿まで収録されています。面白いかはともかく、相対的にははっきりと文章がうまくなっているのが分かります。四十代も遠からん年齢ですが、この4年は二十代と四十代の橋渡し的な期間ともいえる。その間に毎月文章を書き、本にして発表するとは恥部を晒す拷問とも、メタ視点から見れば、またとないビルドゥングスロマン、あるいは小鳥の観察記録といえるでしょう。そういった楽しみ方もできるかも知れません。
 

 追記
 本の中では書いていませんが「小鳥たち」は、もちろんジョン・ケージ「小鳥たちのために」(仏題「John Cage pour les oiseaux」)から来ています。ある層にはお馴染みの話ですが、これは「小鳥たちのための鳥籠(=ケージ)」という洒落でもある。そこに荘子曰く云々……という話が出てくるのだけど、もっとシンプルに、このタイトルはケージとダニエル・シャルル(対談相手)の「おしゃべり=小鳥のさえずり=tweet(≠つぶやき)集」と解釈できなくもない。そういう訳で(?)畏れ多くも「小鳥たち」を使っています。加えて、前書きに位置する「小鳥たちのボイジャー計画」(*)では、「tweet」→「小鳥たち」→「ヒバリ」→「ヨダカ」と鳥のイメージを連鎖させたかった。しかも「ヒバリ」「ヨダカ」は虚実を横断するダブルミーニングになっていて……と、いきなりこんなことを言われても意味が分からないと思うので、詳しくは書籍を読まれたい。

*『小鳥たちの計画』筑摩書房内特設サイトにて、本書所収「小鳥たちのボイジャー計画」を試し読み公開中。
http://www.chikumashobo.co.jp/special/birds_plan/