百年と一日

響きあう時間と場所と誰かの記憶(前編)

柴崎友香『百年と一日』の刊行を記念して、柴崎さんと柴田元幸さんの対談&朗読オンラインイベント「短編小説の魅力と朗読の悦楽」が本屋B&Bで開催されました(2020年10月11日)。『百年と一日』の魅力はどこにあるのか? 「誰も裁かない」「何も祝福しない」小説とは? 翻訳者としてはもちろん、鋭い読み手でもある柴田さんが、柴崎さんの作品の秘密に迫ります。

何も祝福しないことがすべてを祝福する

柴田:ではここで、皆さんに実際どういった感じなのかというのを知っていただきたいので、『百年と一日』の中から一つ朗読していただけますか?

柴崎:はい。では一番最初の話を読みます。タイトルは「一年一組一番と二組一番は、長雨の夏に渡り廊下のそばの植え込みできのこを発見し、 卒業して二年後に再会したあと、十年経って、二十年経って、まだ会えていない話」 。

(続いて本編を朗読 ※試し読み有〔冒頭の一遍〕→https://www.chikumashobo.co.jp/special/hyakunen_to_ichinichi/assets/data/tameshiyomi.pdf

柴田:ありがとうございました。あの、ほとんどルール違反の質問をしちゃっていいですか? 最後の「宇宙人」というのは、最初に「きのこ」のことを書いたときから見えてるんですか?

柴崎:いや、見えてはなくて、この息子が現れて、何を言うかな?と考えたらこう言ったという感じです(笑)。

柴田:それはキャラクターに聞いている感じなんですか?

柴崎:聞いているというより、何を言ったらここでピッタリくるか考えた感じですかね。

柴田:なるほど。ふつう近代以降の短編小説というと、人生の一断片を切り取るものという傾向がけっこう強いですよね。でも今読んでいただいたのは、高校生の頃から中年になるまで、だから人生の1/3くらいは書いてる。こういうのは現代の短編ではすごく珍しいと思うんですけど、ものすごく自然な感じがする。

柴崎:はい。さっき柴田さんが18世紀頃の小説のことを言われましたけど、昔話とか、怪談とか、ああいう感触の話を書きたいというのが最初にあったんですよね。「あるところで、こういうことがあって、最後は幸せに暮らしました」みたいな(笑)。しかも、そこが脈絡ではつながってないというか、「頑張ったから幸せになりました」じゃなくて、「何かいろんなところに行って、最後は幸せになりました」っていうような。ああいうのがすごい好きなんです。

柴田:良くも悪くも因果応報的なものではないってことですね。なるほど、分かりました。それで今回、僕が自分に課した仕事はですね、柴崎さんのこれらの短編を読んで、何かそれに呼応するような英語の短編を翻訳するということでした。ということで、今の短編に呼応するものとして、マシュー・シャープという人の短編を読みます。短いもので、“But, don't worry”、「でも気にしないで」というタイトルです。(本編を朗読)

柴崎:ありがとうございました。

柴田:今回、柴崎さんの作品と似たものを探していて、大抵のものは駄目だなと思ったのは、やっぱりほとんどの作品には価値判断が入っているからです。『百年と一日』の作品は、今朗読していただいたのをはじめとして、誰も裁かないですよね。

柴崎:ああ、たしかにそうですね。それは、自分の書く小説の特徴だと思います。

柴田:だから、先ほどの「きのこ」の話もそうなんですけど、何も祝福しないというか、むしろ何も祝福しないことがすべてを祝福する一番良いやり方なのかなっていうふうに、読みながら思ってくるんです。

柴崎:そういうところは自分にあるかもしれないです。

柴田:で、このマシュー・シャープもね、彼が書くものはどれも変な人が出てくるんですけど、その人を肯定するでもなく否定するでもなく、ただ差し出すっていうところが、柴崎さんの作品とちょっと通じるところがあるのかなと思って選びました。

柴崎:お母さんが少し変だったり、宇宙の粒子の話とかいろんなことが脈略なく出てくるけど、だからどうなのかということではなくて、「そういう人がいるんです」っていうふうに受け取れるように書いてありますよね。そういう小説って、実はなかなか少ない気がします。

柴田:そうですよね。さっき柴崎さんに朗読していただいた話は基本的に一組一番と二組一番しか出てこないから、どっちを肯定・否定するものでもないかもしれないけど、あの2人も、例えばある種の仲間意識みたいなのが芽生えて、他のクラス全体は何となくネガティブに描かれると、けっこう分かりやすくなるじゃないですか。でも、そういうふうな自己祝福はしてないですよね。そこがすごく、清々しい。

柴崎:そう言っていただけると嬉しいです。小説って、例えば今の例だと、他のクラスメイトにはなじめなくて2人だけ特別に分かりあえてみたいな、そういう流れとか心の動きを書くものだと思われがちなんですよね。もちろんそういう小説で好きな作品もたくさんありますけど、そうじゃない作品の在り方もあるというか、小説はそれができる面白い手段だなと思っていて、私はそういうのを書きたいんです。

〔後編へ続く〕

(2020年10月11日本屋B&Bよりオンライン配信/構成:小林英治)

2020年11月20日更新

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柴崎 友香(しばさき ともか)

柴崎 友香

1973年、大阪生まれ。2000年に第一作『きょうのできごと』を上梓、04年に映画化される。07年に『その街の今は』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、織田作之助賞大賞、咲くやこの花賞、10年に『寝ても覚めても』で野間文芸新人賞、14年に「春の庭」で芥川賞を受賞。他の小説作品に『虹色と幸運』『パノララ』『わたしがいなかった街で』『週末カミング』『フルタイムライフ』、エッセイに『よう知らんけど日記』『よそ見津々』などがあり、著書多数。

柴田 元幸(しばた もとゆき)

柴田 元幸

1954(昭和29)年、東京生まれ。アメリカ文学者。東京大学名誉教授。翻訳家。『生半可な學者』で講談社エッセイ賞受賞。『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞受賞。トマス・ピンチョン著『メイスン&ディクスン』で日本翻訳文化賞受賞。ポール・オースターなどアメリカ現代作家を精力的に翻訳するほか、文芸誌「Monkey」の責任編集を務めるなど、幅広く活躍中。

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