免疫学者が語る パンデミックの「終わり」と、これからの世界

オミクロンの時代を生き抜くための「本当の知識」とは?【後編】

『免疫学者が語る パンデミックの「終わり」と、これからの世界』刊行記念対談

コロナ感染の重症化のメカニズムから、ワクチンや免疫の性質まで、科学的な知見に基づいて平易に解説した『免疫学者が語る パンデミックの「終わり」と、これからの世界』。その著者で、インペリアル・カレッジ・ロンドンのReader in Immunology(准教授)の小野昌弘さんと、外科医・病理医としての経験を生かした、リアリティあふれる医療現場の描写で現代社会の病理を衝く小説を発表してきた海堂尊さん。このお二人に、前・後編の2回にわたって、存分に語り合っていただきました。

 

ワクチン開発と今後の見通し                           

海堂 今、医療スタッフの感染も多いですが、医療機関に余裕がないと診療機能の維持は難しい。ここに「働き方改革」が重なり、医療現場にこれまで以上の負荷がかかっているところに、働き方も抑えるようにとなっているので、合理的な改革が必須です。現場の先生たち、医療従事者の方々のご苦労はほんと大変です。今、メディアがコロナが増えた、とまた騒いでますけれど、実際のところの大変さをあまり理解していない部分もあります。

小野 問題は病院で働いている人がワクチンを接種し、重症化要因が少なく、新型コロナにかかっても本人は深刻に心配する必要がないとしても、やはり医療者から患者への感染は回避したい。ならばどうすべきか。パンデミック初期段階では医療従事者は可能な限りワクチンを打ち、感染しないようにして医療を回す、という方針でした。でもワクチンの感染予防効果はさほど長くないことがわかり、となれば、感染予防効果を指標にすると頻繁に打たなければいけない。医療従事者だからといって、そんなことは強制できるわけがないので、英国でも明確に否定された話です。

海堂 医療現場からみたら、トラブルが押しつけられ、便利屋的な使われ方をされてしまう。完全に単なる「しわ寄せ」です。短期なら何とかできたとしても、長期的には無理ですから、合理的な新しい仕組みを作らないとどうにもならもないだろう、と思います。

小野 流行時には、医療機関の欠員が出ることを織り込んで、医療体制を作る必要性があります。医療だけでなく、社会全体に話を広げた時、例えば、飲食店を運営している人がどれだけ感染を気をつけるべきなのか、どれだけ現実に防げるのか。2020年にワクチンが出来、2021年にキャンペーンがなされる中で、ワクチンの感染予防効果が高く、これでパンデミックは終わる、と思い込まされた人は多かった。しかしその後、ウイルスは変化し、感染予防効果は比較的早く減弱するとわかりました。でもワクチンには重症化の予防効果があり、オミクロンでも既存のワクチンで重症化予防効果がある。ただしオミクロン株は変異を溜め込んでいるから、高齢者を中心に重症予防効果も減弱してしまう。現時点ではワクチンによる免疫は、高齢者でもできますが、減弱するスピードが相当速く、半年で減弱する。効果が4割減弱すると、社会全体で大流行することになり、大問題になるでしょう。

海堂 なるほど。それでは今後のワクチンのプランについて詳しく教えてください。

小野 間違いなく言えるのは、今後のワクチンの組成は変わるだろう、ということです。今、あえて変えていないのは、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタや特定の変異株を狙い撃ちにする必要性がないからです。オミクロンも含め、まだなんとか通用しています。ワクチンを特定の変異株、たとえばオミクロン用に変えてしまうと、今度は、元々のデルタに似た変異株に効きにくくなる。最終的には、ワクチンはミックスタイプになるのではと思います。でも、これでも大きな変更ではない。スパイクタンパクを使い、重症化予防ができることを目指したワクチンに微調整されていくと思います。1回打ったらしばらく効くという次世代ワクチンも開発努力されています。これについては、現実に開発の先が見えている状態ではありません。当面は、この微調節をどの時点でやっていくかという判断をしながら進んでいくと思います。

情報共有が推進した、パンデミックを制御するための科学・技術の発展

海堂 過去を振り返ると、今回のコロナ蔓延に際し起こったことは医学的に画期的で、コロナが発見された3週間後ぐらいに全塩基配列が同定され全世界に発信されているのです。そのデータをもとに世界各地の製薬関係の方がワクチン開発に取りかかった。全配列がすぐにわかったということ、ワクチン開発が同時多発的に色々なところで行われたこと、この2つは、まさにコロナ禍において起きた希望です。ですからそこをベースに、小野先生のなさっている、その先を目指すということを考えると、かなり希望は持てると思います。2000年4月にパンデミックになった時、コロナのmRNAワクチンはこの世に存在しなかったと思うと、すごいスピードでワクチン接種した人が増えたことで、コロナの重症化などが防げたのはまさに福音です。小野先生もロンドンで、ワクチン開発に関連する研究をされているので、ぜひ素晴らしい研究成果を出してください。

小野 ええ、頑張ります。ではここで、新型コロナワクチン開発に関する研究の全体像を説明します。今回のコロナ・パンデミックで、こんな短期間でワクチンが出来て、対処できているのは偶然ではありません。mRNAワクチンは、臨床試験レベルでは随分前から作られていて、「がんワクチン」で開発が進んでいた。ただ感染症ワクチンとして広く使うのは初めてです。20世紀後半に発展した分子生物学の貢献で、今の形の免疫学が進展していたからできたことです。

新型コロナワクチンで具体的にどのようなmRNAワクチンを作ればよいかは、2004年のSARSの経験で原理はわかっていました。このときに、ウイルスのスパイクタンパクをつかってワクチンを作れば効果があるはずだというところまでわかっていたのです。このように考えると今のコロナ・ワクチンは決して「1年半でできたワクチン」ではない。情報を共有しコラボし、問題解決に動く。それが世界レベルでできる体制になっている。この方向性は、大きな人類の進歩だと私は思っています。

研究費助成の意思決定のありようと情報公開

海堂 その意味では、日本のワクチン開発は非常に残念で、「アンジェス」という会社が大阪で華々しくワクチン作ると旗揚げをして国や自治体から100億円以上の補助金をもらいながら結局、情報開示もしていません。これは非常に恥ずかしいことだと思うんです。

小野 イメージとして、日本は潤沢に研究費を供給している国で、高度な科学技術があるから、ワクチン開発に成功し、世界に貢献してくれるだろうと期待していた人も多かった。でも現実はそう進まなかった。なぜかはきっちり振り返るべきです。どういう目的で、どういう方法で、どんなことをやって、こういう形でお金を使い、こういうものを生み出したということが、透明になっていることが大前提です。今は一般の会社でもデータ共有を積極的にしているので、データの共有がなされてないのは日本がこの20年で遅れを取ってしまったことの象徴だと思います。そのやり方を変えることで、本来的な力を発揮できるはずです。データを見て現実を見て、記録に残し、透明な状態で協力すれば、最大の効力を得られます。

海堂 小野先生は人格者ですので、非常に柔らかく言いますが、私から見ると国税を100億投入され、公約も果たせずデータも公開しない「アンジェス」は、税金泥棒だと思います。しかもそれを国が黙認している。どうお金を使い、データを公開しないのでは国もグルなんじゃないかという疑いさえ持ちます。(追記:「アンジェス」の森下竜一教授は典型的な「アベ友」で、大阪維新とも深い関係にある。ワクチン開発に勤しむべき大切な時期である2020年に、改憲推進映画「日本独立」の製作総指揮にあたり、4億円もの巨額出資をした、と週刊文春が報じている)。あえて小野さんの意見は求めませんが、今の状態が問題だということには、同意してくださると思います。

小野 そうですね。ひとつ付け加えるなら、人間は万能じゃないので、うまくいく時もうまくいかない時もあり、現実的になるべきだと思います。問題は失敗した時、うまくいかなかった時にどう対処したか、です。その部分を適切に評価し、失敗は失敗として対応も評価し、記録していくことが前向きに物事を解決していく上で大事です。逆はしないようにする。つまり見なかったことにする、臭いものに蓋をするというのは進歩を阻害する、と思います。

海堂 同感で、これは医療事故問題にも繋がります。医者は患者やけが人を前にした時、何もわからない状態から手探りでやっていくので、当然、失敗もある。失敗した時の情報を積み重ねるのは、非常に大切です。ワクチン開発に失敗した業者がデータを公開すれば、次にやる人は失敗を繰り返さないで済む。そういうことに無為なのは、無責任です。日本の医療従事者はそういうところはきちんとやっていました。これからは、医療をベースにした社会システム作りをすべきだ、と思います。

小野 もう一つ、あまりに自明で言い忘れていましたけど、「評価」は大事です。失敗に対する対応やアチーブメントがない人、および団体に補助金を出し続ける理由はない。そのかわり競争を公正にする。できる人にリソースを与える、できない人にはあげない、という単純なことを達成するためには、評価制度が透明である必要性があると思います。

海堂 ワクチン開発に失敗しただけならともかく、データさえ公開できないというのなら、補助金を返すべきでしょう。全ては、情報開示が基本になるんでしょうけど。

小野 本当にそうすべきだと思います。これまでの科学研究費の運用の基本として、もし研究内容や会計等で不正があった場合は、研究者が研究費を返上することになった例は複数あります。これは例えば100万円程度のお金でも厳しく管理されていたものです。今回のワクチン開発におけるお金は、その1千倍の100億円という、通常の研究費としてはあり得ないほどの大きな規模の予算がつかわれました。ですから、特に、実用化に失敗したのみならず、まともな論文すら発表できていない企業については、実質的な開発の内容がきちんとあったのか、これまでの研究・開発内容を厳しく点検しなおし、きっちり会計監査して、国民に情報公開することが必須と思います。もちろん、ここで研究内容や会計で不適当なものが出てきてしまった場合は、会社でも、予算を返上するのが当然でしょう。

それにしても、研究費を給付した国の側も、研究進捗状況が明らかにおかしいときは給付を途中で止めるとか、いろんな方法があったと思います。日本は、線引きと撤退が下手ですね。ある時点でもうダメだと線引きをしていくことを公正にやれば誰も困らないし、国民の血税という限りある資源を使うわけですから、その辺の緊張感は、大事だと思います。

海堂 まったく同感です。

ワクチンでできる免疫とT細胞

小野 今回、北里の伝記を読ませていただき、改めて、免疫学の歴史までさかのぼって考えました。北里柴三郎が免疫学の創始になる大発見をしているんです。それは、抗体についての発見につながるはずだった。抗体とはウイルスに対し特異的に結合するタンパクで、免疫細胞のB細胞が作ります。ワクチンはB細胞に抗体を作ってもらう道具です。どういう抗体を作ってもらったら一番助かるかということです。SARSの経験からスパイクタンパクに対するものならいい抗体ができ、感染を止め重症化を予防してくれるというので、ワクチンはスパイクタンパクを使うものが一番多い。加えて不活化ワクチンの形で、ウイルス全体を働けないようにして、ウイルスの持ってるものを全部入れたらもっといい効果が出るんじゃないかということで、やっている最中ですね。

海堂 不活化ワクチンの可能性はどうですか。多彩な抗体誘導ではむしろmRNAワクチンより有効だという話もありますが。ダブルで使うのは免疫誘導に有効だと思うんですが。

小野 理論上はその通りで、他のウイルスタンパクに対するT細胞の免疫ができる可能性はありますが、実際に有効かどうか、検証が必要です。T細胞免疫は計測しにくく、現時点ではどれくらいの効果があるのかは不明です。今のところ組み合わせで使っていくという見通しです。もし、mRNAワクチンと不活化ワクチンを併用した人の方が、重症化予防効果が長く続くというデータが出たら、組み合わせて使っていけます。ただし、中国で作成された不活化ワクチンよりも、同時期に欧米で開発されたmRNAワクチンの方が効果が高く、組み合わせる動きにはなりませんでした。

PCR検査について

海堂 次に検査について伺います。第7波になりPCR検査を希望する人がすごく増えています。PCR検査、抗原検査等について基本的なところを教えてください。

小野 「PCR検査」は、ウイルスの存在を高感度で検出するので、感染の有無決定のゴールドスタンダードになります。一方、「抗原検査」はPCR検査より簡単にできる定性検査が普及していて、自宅でもできます。PCRはPCRの機械が必要で、家庭ではできません。新型コロナウイルス感染を確定するには、「PCR検査」が必須です。英国では、感染者数が非常に多く重症者患者も多かった時は「定性の抗原検査」もかなり有効でした。自己判断が必要になるケースは非常に多く、たとえ85パーセントの確定度でも必要になる場合は非常に多い。ですので、今後も併用する形で使われていくと思います。オミクロン株が出現して感染者数が爆増したので、各国とも検査数が足りなくなっている状態です。ただしオミクロンを含め、これからのウイルスは、地域、地域で意味付けが違ってきます。今のオミクロンの経緯は、地域で違います。感染者を同定し、感染者数を把握することは、地域に応じ、全体として考えるべきです。日本のやり方は、市井の人々に責任を押し付けてきたので、その人たちが判断できる材料には、簡単にアクセスできるようであってほしいと強く思います。

海堂 衛生学では、感染症に対しては検査をして、患者を確定し、隔離するのが大原則です。ただしこれも2フェーズあり、抑え込み可能な感染者少数の頃は全数検査で徹底隔離すべきですけど、オミクロンみたいに蔓延してしまうと、現実的ではない。どこかでフェーズチェンジすべきで、現在の政府の対応は、それほど悪いものではないと思います。でもそうしたことを意図的にやらず、なんとなく流してしまったことは問題ですし、初期の抑え込みの時は、もっときっちりやらなければいけなかった。特にPCR検査は偽陽性が多いなどという、医学的に誤った知見を広げ、衛生学的な誤誘導を行なったにも関わらず、そこに対する反省がないのは大問題で、現在の政府の対策がそれほど悪くないというのは、実はまぐれ当たりだろう、と推察できます。そうした混乱し、混沌とした現状に対して明快な答えを与えてくださるのが小野先生の本なので、手元に置いてニュースが出るたびに関連するところを読むと、社会的を安定させる仕組みができる。そうしたことのために書かれたんじゃないかと推測していますが、当たっていますか?

小野 その通りです。日本以外のアジアのやり方は明確でしたし、その良いところはとるべきです。英国や米国などの良いところもありましたから、これも採り入れていったら良いと思います。それは次にパンデミックが起きたとき(これは必ず起こることですから)、あるいは大きな変化が出た時にどう対応したらいいかということを考える材料になるので、まとめておきたかったのです。日本や英国の人が自分の社会の弱み・問題点を明確にして、使える形で提示したいと考えたのです。要はいいとこ取りです。

海堂 そういうことを認識するには、日本人で、かつ外側から日本社会を見て、適切なアドバイスしてくださる小野先生のような方は重要な存在です。コロナに関して現時点で正しい情報、コアな情報をきちんと伝えることが大切なので、この書は今、多くの人が読むべきです。

今回の出版にあたって――誰でもわかる、最高の免疫学の入門書

小野 私はこの2年半の間にTV出演や雑誌インタビュー、自分でTwitterや記事を書き大事なポイントを伝えようとしましたが、限界を感じました。Twitterは1つのツイートで書けるのが140字と短く、伝えきれないことがたくさんある。記事の形でも、A4数ページでは伝わらないことが厳然とあった。知識を伝えるにはある程度の長さが必要です。昨秋、日本の状況に危機感を覚えたけれどもTwitterや記事では伝わらなかった。考え方を伝えるには事実を伝えるよりも分量が必要です。それで本の形で、考え方を伝えたいと思い、構想を練り出したのが昨年の秋頃でした。

海堂 おっしゃることはわかります。日本でワクチンに対し誤解が蔓延したことには理由がある。ワクチンを推奨した時、五輪強行のために政権が無理やりワクチン接種を推進したという印象が強く、それなのに十分な供給量が満遍なく行き渡る仕組みが作れず大混乱をきたした。そんな中、「ワクチン打つべし」という情報だけが怒濤のように流され、「ワクチンさえ打てば感染しない」という誤った情報が市民の潜在意識に刷り込まれたことが、混乱した大きな要因だと思うんです。小野先生が書かれた、「ワクチンは感染予防もできるが、感染予防が必ずしもできるとは限らない」、「ワクチン接種では重症化を防ぐことが非常に有用である」という一連の文章を拡散していくのが、次のフェーズにおいては大切なことだと思います。

小野 私がつくづく思いますのは、せっかく良いワクチンができたのに、政府の批判は許さないという態度の一部のツイッター上の医師のひとたちが、ワクチンの理解が不十分なままで浅い情報を流布させたせいで、むしろ、ワクチンに対する疑念を煽っただけだったのではないかということです。少なくとも、ワクチンに関する言論がすっかり混乱してしまったのは事実です。ですから、コロナの免疫とワクチンについての基本的な理解をきっちりと深めることが、いまどうしても必要なことなのです。これが今回の新刊を書く動機のひとつになりました。

また、この2年半の経緯を理解することは、今後のパンデミックに対応していく上で必要不可欠なことと思います。日本の言説は混乱してしまっていますが、科学的には、この2年半で一つの到達点まできたことは明瞭です。この2年半でわかったコロナと免疫の原理が理解できれば、今後、新しい情報が入ってきても、混乱することはそうないと思うのです。実際、こうした原理は、英国では責任ある立場の人たちが共有している、パンデミックにどう対応してしていくべきかという方針の基盤になっているものです。ですから、どこかの時点でこの2年半の経緯を残しておかないと、今の状況を考えられなくなる。そうした思いで、古びないものを残したい、と思いました。

海堂 先生の著書は、山壁のハーケンみたいなものです。現時点でここまで到達していて、次はそこから始められる。でもこの本がないと、もっと下から始めないといけないことになる。その意味で、日本国民の共通認識とすべきものです。この本は、特に医学生は読むべきです。私は劣等生で特に免疫学が苦手で、国際的な学者だった恩師に、落第ギリギリ通していただいた、その恩を今、返そうかと思って(笑)。免疫システムは複雑ですが、この本では免疫学に関しても明瞭に書かれていて、学生時代にこの本があったら良かったのにと、つくづく思います。

小野 確かに免疫学の部分は医学生にも使えますね。「免疫学」は難しくない。1つ1つは単純ですが、用語が複雑で絡まり合っているので全貌を捉えにくい。でも今回のパンデミック下では、「免疫学」の知識の有無で日常の生活が変わる。それくらい重要な知識です。基本的なラインさえわかれば、誤情報に惑わされない。新しい情報に対し、そういう形で本書を使っていただきたいのです。「免疫」という言葉は一般でもよく使用されますが、大概の用法はポイントがずれていて、意味が違う用法がなされている。。「免疫学」を理解するとは、流行制御やワクチンに対する考え方、感染予防の意味、ワクチン接種の意義を知ることです。新型コロナウイルスに対し、無意味な恐怖心を払拭するために「免疫学」は有用な知識なので、是非、皆さん、「免疫学」を好きになってください。

海堂 その意味で本書は「免疫学の最良の入門書」、「コロナウイルスに関する解説書」、「ワクチンに対する適正な説明書」と、一粒で三度美味しい本です。私は最近(2022年7月)『コロナ狂騒録』(宝島社)という小説を文庫化したんですが、免疫学、特にワクチンやウイルスに関し、アップデートの情報をできるだけ正確に伝えたくて、小野先生に監修をお願いしました。今回の小野先生の本は、その正確な医学知識の部分を、よりわかりやすくして、最先端の知見も盛り込んだという、素晴らしい本です。ぜひ、皆さんに読んでいただき、周囲の人にも勧めてください。それは日本社会の医療防衛のためにもなるのですから。

小野 ありがとうございます。「免疫学」の基本をわかっているか、わかっていないかで大きく違ってくる。「免疫学」は日本の著名な研究者がたくさんいる分野で、少し前だと多田富雄先生が免疫学者、かつ文筆家として発信されていましたが、何せ80年代の話で、今の知識、パンデミックに直接用いることができる本になっていません。ですので、ここは自分で書くしかないか、と思いました。是非、色々なところで役立てていただけたらと思います。

海堂 おお、最後に学会の権威へ挑戦するという、野心的な顔がちらりと覗きましたね(笑)。理解のしやすさは太鼓判を押します。ほんとにわかりやすいです。

これからの世界――対談のおわりに 

小野 本書では近未来の予想図を「パンデミックの終わりとこれからの世界」の章でいくつか提示しています。シナリオを1つに絞ることは難しいけれど、できるだけ論理的に書きました。目指すべき方向性は明確になっているので、今後の指針とすべく、最終章で方向性を示したのです。

海堂 「人々の結びつきを分断したパンデミック」という象徴的な表現で、そういう情勢を言語化されています。実は、そこが大問題だったんですね。

小野 その通りです。人によって見える風景は違います。そもそも、パンデミックのあいだの体験が違いますし、また自分の状況によって、心配するポイントや安心の仕方も違います。生物学的な理由も社会的な理由もあり、動かしがたい部分があって、でもみんなで対応できるか、より合理的かつリーズナブルな対応ができるかは、全体を見ればわかる。その全体像の提示を目標にしました。

海堂 一般人から見ると医療の現場は透明性がなく、わかりにくいとも聞きます。患者には初めての体験ですが、医療従事者はたくさん経験しているから、患者から見て曇りガラスのあっち側、医療従事者の側では透明性がちゃんとある。でもこの書を読むと、一般人にももっと透明性を提供すべきなのかな、と感じました。

小野 科学的・医学的な真実というものは、ときどき重たいものではありますけれど、結局のところは、真実を知って考えて行動することは、皆にとって有用なことと思います。いま、間違いなく、わたしたちはパンデミックの出口に向かっています。パンデミックの始まりは、ある意味シンプルで選択肢は限られていました。でも、今は国によってコロナ流行の影響は違うフェーズに入り、個人によっても状況がそれぞれ違うんです。でも、社会として決断していかなければならない。だから、他者への配慮と理解が今まで以上に重要なフェーズなんです。

難しい時期があとしばらく続きますが、今回の新刊に盛り込んだ内容を、考える材料の糸口にしていただけたら、と思います。新知識はその都度仕入れても、どういう枠組みで新知識を取り入れるべきかという基本的な原理原則がわかれば今後のパンデミックの変化にも対応できるだろう、と思います。

海堂 最後に私からひと言。今こそ、小野先生の本を読みましょう。以上です。

小野 専門的な知識を分かりやすくするため、イラストも私が原画を描きました。イラストレーターさんと相談し、使える知識が読み進めやすく、皆さんの生活が楽になったらいいな、という願いを込めました。活用していただけたら嬉しいです。

* 本対談は、2022年7月14日にB&Bでオンラインでなされたお二人の対談に加筆修正を加えたものです。        

〔告知情報〕9月16日(金)午後3時よりに、熊本大学にて、小野昌弘さんと海堂尊さんの対談講演会が開催されます。参加費は無料、Zoom ウェビナー(要参加登録)。後日、YouTubeで動画配信予定。

2022年9月7日更新

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小野 昌弘(おの まさひろ)

小野 昌弘

1975年生まれ。免疫学者。インペリアル・カレッジ・ロンドンでReader in Immunology(准教授)およびPrincipal Investigator(主任研究者)として、がん・新型コロナなどの感染症・自己免疫病におけるT細胞のはたらきを研究。学部の感染症・免疫コースで教鞭もとる。熊本大学でも客員准教授として研究を展開。99年に京都大学医学部卒業。皮膚科研修後、2006年に京都大学大学院医学研究科にて博士号取得。07年より同大学助教。09年からユニバーシティ・カレッジ・ロンドンでHFSPフェローとして研究。13年にBBSRC David Phillips Fellowshipを受賞し、同大学で研究室を開く。15年にインペリアル・カレッジ・ロンドンに移籍。『コロナ後の世界——今この地点から考える』(筑摩書房)、『現代用語の基礎知識』(2020年版、2021年版、自由国民社)などに寄稿。

 

海堂 尊(かいどう たける)

海堂 尊

1961年千葉県生まれ。外科医・病理医としての経験を生かした医療現場のリアリティあふれる描写で現実社会に起こっている問題を衝くアクチュアルなフィクション作品を発表し続けている。デビュー作『チーム・バチスタの栄光』(宝島社)をはじめ、「桜宮サーガ」と呼ばれる同シリーズは累計1千万部を超え、映像化作品多数。Ai(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)の概念提唱者で関連著作に『死因不明社会2018』(講談社)がある。近刊書に『コロナ黙示録』『コロナ狂騒録』(ともに宝島社)、『奏鳴曲 北里と鷗外』(文藝春秋)、『北里柴三郎 よみがえる天才7』(ちくまプリマー新書)。

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