ちくまプリマー新書

「強さ」とは何か?

『植物はなぜ動かないのか』まえがき

4月のちくまプリマー新書より「まえがき」を公開します。稲垣栄洋さん『植物はなぜ動かないのか』の冒頭を立ち読みすることができます。

「強さ」とは何か?
 これが本書の大きなテーマである。
 筋肉むきむきで、けんかに負けないことも強さだが、じっと歯を食いしばって耐え抜く強さもある。いやなことを毎日コツコツとやり続けるというのも強さだ。
 生物もまた、さまざまな強さを持っている。
 植物は、どうだろう。
 植物は、動かない。目も耳もないし、手足もない。私たちのように考えたり、話したりすることもできない。それでは、植物は劣った生き物なのだろうか。
 植物はさまざまな生き物の餌になる。草食動物は、植物の葉を餌にしている。根っこを掘って食べる動物もある。小さな芋虫やバッタなども、植物をむさぼり食べている。あののろまなカタツムリさえも、葉っぱを食べているくらいだ。食べられ放題の植物は、か弱い存在に過ぎないのだろうか。
 植物は、何気なく生えているような気がするかもしれないが、この自然界を生きるために、さまざまな生きる知恵や工夫を発達させている。植物は、鋭い牙や爪を持っているわけではないので、強そうなイメージはないかも知れないが、植物は、この自然界を強く生き抜いている。
「弱くて強い」
 これが植物という生き物の姿だろう。本書では、「強さとは何か」をテーマに、そんな植物の生き方を探ってみたいと思う。
 本書は、中高生や学生の皆さん向けに、わかりやすく植物の話を書いてほしいという企画を受けて、書き下ろしたものである。
 理科が苦手な若い皆さんの中には、植物学というと無味乾燥で、面白味がないと思ってしまう方も多いかもしれないが、植物の生き方というのは、じつにダイナミックである。ぜひ、理科の教科書の裏側にある、植物たちの生きるドラマを感じてほしい。もちろん、すでに学校を卒業した大人の皆さんにも、読んでいただける内容である。学校で理科が好きだった人も嫌いだった人も、ときに植物たちの激しい生き方に驚嘆し、目を見張ることだろう。人生経験を経た読者の皆さんは、植物の生き方に共感したり、自らの人生を重ね合わせることがあるかもしれない。古今東西の偉人たちも、そうやって人生の真理を植物にたとえてきたのだ。
「強さ」とは、いったい何なのだろう。
 それでは、弱くて強い植物の世界を覗き見てみることにしよう。
 

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