本書を私なりに要約すると、以下のようになります。
「要約力があれば人を幸せにできる。だから鍛えよう」
本来、こうやって要約して終わるのがこの本の解説にはぴったりだと思うのですが、指定された文字数はまだまだあります。
前述した一行は、私にとって目からうろこでした。もちろん要約が重要なことは認識していました。
しかし「こちらに要約力があることで、相手のエネルギーが節約できる。だから人の幸せにつながる」という発想は思いうかばなかったからです。
そう考えると、本書は「人を幸せにする道しるべ」だと言えるかもしれません。なぜなら、人をひきつけ、人の役にたち、人を幸せにすることができる「要約力」を身につけトレーニングする方法を、これでもかと紹介してくれているからです。
何より比喩と理屈と実例がお見事です。はじめにの「情報の卓球化」という比喩でググッと読み手の心をつかみ、次に「インナーテニス理論」「共同主観」などの理屈から「要約の重要性」を納得させていく。さらにスキージャンプの原田雅彦選手やサッカーの長谷部誠選手の実例を紹介して「確かに」と共感させていきます。
また実例の守備範囲が幅広いのも特徴です。前述したようなスポーツ選手のエピソード。『葉隠』『源氏物語』『坊っちゃん』『こころ』『ツァラトゥストラ』などの古典。『呪術廻戦』『鬼滅の刃〜無限列車編』『愛の不時着』『君の名は。』『進撃の巨人』といった最近ヒットしたコンテンツ。さらには「仙台銘菓 萩の月」「神保町の欧風カレーボンディ」「婚活サイトのプロフィール」に至るまで、古今東西森羅万象さまざまな実例が、要約力を鍛えるためのサンプルとして紹介されていきます。
この実例の豊富さ幅広さこそが著者の真骨頂と言うべき部分でしょう。私は普段、面識のない誰かに先生という呼称をつけることはまずありません。しかし著者のことは自然と齋藤孝先生と呼んでしまいます。それは著書からにじみ出る教養の深さ故です。
本書ではそれに加えて、新たなインプットの幅広さもハンパないことがわかる。いつも時間に追われている自分自身と比較すると、打ちのめされてしまいます。おそらく考えられないほどの仕事をされているにもかかわらず、いったいどうやってそんな時間を捻出しているのだろう? と思わざるを得ません。
打ちのめされると書きましたが、ポジティブにとらえると、自分の代わりに齋藤先生自らが、いろいろなものをインプットして本にまとめてくれているということです。
この新書一冊で、要約力を鍛えられるだけでなく、さまざまな古典や心理学の理論、最近のヒットコンテンツのエッセンスまでも知れるのですから、こんなお得な買い物はありません。
もちろん、何でも要約する風潮に反対する方もいらっしゃるかもしれません。確かにそれも一理あります。要約ではこぼれ落ちてしまう部分に大切なことが含まれる場合も多いからです。
実はこの本自体が「要約は大切」と語る一方で、「要約でこぼれ落ちる部分にも重要なことがある」ということを証明しているという構成になっています。
ちなみに、本書で個人的に一番響いた部分は以下です。
「より高度な要約にしたいなら、骨格にシャトーブリアン的な肉をつけるといい」
なるほど! なんてわかりやすい比喩なんでしょう。骨格だけだと無味乾燥な要約になるので、そこに個性という肉をつける。それもできれば最高ランクの肉を。
シャトーブリアン的な肉を食べ慣れていない私からは、まず出てこない比喩です。たまにはいいものを食べなきゃ。