ちくま新書

名もなき人びとの歴史へ

江戸時代の「大坂」で市井の名もなき人々はどのように生きたのか? どんな仕事をし、どんな人生の荒波にもまれたのか? 12月刊の塚田孝『大坂 民衆の近世史』は、それに迫ります。「序章」を公開致しますので、ぜひお読みください。

†褒賞を探る、褒賞から探る
 本書では、第一に寛政改革を契機にそれ以後広く行われるようになる孝子褒賞・忠勤褒
賞について、大坂における展開を具体的に見ていきたい(褒賞を探る)。まずは褒賞制度の開始、その条件とパターンを見ることを通して、江戸時代の褒賞の持つ意味を考える。さらに、それが先に触れた明治初期の制度化の中に吸収されていくことを確認する。もちろん長い時代の流れの中で褒賞・褒章の持つ意味は大きく転換してきたが、それは、現在の褒章の起源になっている。そこまでの流れ(特に明治初年の制度化)を見るとともに、大きな相違点をも見定めたい。
 第二には、そうした孝子褒賞・忠勤褒賞の展開を踏まえて、これらの褒賞の通達に付さ
れた理由書から、都市大坂に生きた人びとの暮らしの様子をうかがうことをめざしたい
(褒賞から探る)。江戸時代の褒賞について深く理解するためには、地域の実態に即して考える必要がある。それ故、本書では江戸と並ぶ巨大都市大坂の事例に即して見ていくこととする。これは、褒賞の事例を通して大坂の都市社会のあり方を掘り下げることにつながるであろう。
 以上の2つの課題を実現するため、本書では、以下のような順序で考察を進めていくこ
とする。第1部(第1・2章)では、褒賞事例が展開する舞台としての都市大坂について、まず都市の空間的な形を説明し、その後、住民組織の基礎単位である「町」を中心に社会
組織について述べる。
 第2部(第3〜6章)では、まず寛政改革をきっかけに広がる褒賞の大坂における全体
的な展開を跡づけ、その上で、孝子褒賞と忠勤褒賞に分けて、そのパターンと条件につい
て整理する。さらに、そこから都市下層民衆の全般的な状況 ―― 病気や高齢化、火事の被災などで容易に過酷で不安定な生活に陥る状況 ―― をうかがう。
 第3部(第7〜10章)では、そうした人びとのさまざまな生業(仕事)について見ていく。まず、最初に都市民衆の多様で雑多な生業(仕事)のあり様を確認し、いろいろな
仕事を兼て働く姿(複合的な生業構造)を浮かび上がらせる。その上で、町の雇用する職
業からその扶助的な側面について窺うとともに、複合的な生業構造について補足する。ま
た仲間組織を形成している職種のいくつかを取り上げて、褒賞事例からうかがえる様子を
見るとともに、そこからは見えない局面があることを指摘する。最後に遊女・茶立女と歌
舞伎役者の褒賞事例を検討し、彼ら・彼女らの社会的位置づけを行う。
 なお、第10章では、御池通五丁目の褒賞事例について、これまた褒賞の通達史料からは見えない状況を町の史料からうかがい、あわせて町の性格を補足する。
 終章では、明治期に視野を拡げ、展望を試みる。まず、明治初年の大阪の褒賞事例を確
認し、勲章・褒章の制度化と江戸時代の褒賞との関係に触れる。最後に、明治初期の東京
の庶民の生活状況について樋口一葉の事例を参照し、江戸時代の大坂のそれとの共通性と
差異に触れる。

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