パンケーキフレームワークで変化をとらえる 

1枚目と2枚目のパンケーキの正体

この連載のタイトルでは比喩としてわかりやすいように「パンケーキ」という言葉と図を使っていますが、実は1枚目と2枚目のパンケーキの形は全く違うというお話です。1枚目は大きさも形も確定していて誰にでも見えますが、2枚目は全く未知のものであり、それは意識しなければ見えてこないのです。

 パンケーキフレームワークで変化をとらえる、今回は実際のパンケーキでは同じものが二段重ねになっている2枚のパンケーキが、本連載のパンケーキフレームワークにおいては実は全くの別物であることを説明しましょう。

 まずはパンケーキフレームワークについて簡単におさらいしておきます。以下のように重なった2枚のパンケーキが左右にずれるイメージで、片方の円(パンケーキ)が従来の技術や価値観で右側の円が新しい技術や価値観です。図中の1従来の技術や価値観で可能だったが新しい技術や価値観では不可能になること、およびその逆の3従来の技術や価値観で不可能だったが新しい技術や価値観では可能になる(と予想される)ことの2つの領域でした。

 
 
 ここまでこのパンケーキフレームワークを用いて、テレワークやEコマースといったものを取り上げて、新旧の技術の入れ替わりにおける人の心の動きや変化への対応の可否といったものについて述べてきました。そこで何気なく用いてきた2つの円の間には実は決定的な違いがあり、そこは根本的に(1枚目も2枚目も基本的に同じものが重なっている)実物のパンケーキとは大きく異なっています。

 それではそれらがどのように違うのか、まずは比較項目をリストアップした一覧表を挙げておくことにしましょう。

 
 
 例えばここでの「左側と右側」というのは「オフィスワークとテレワーク」「店舗販売とEコマース」「固定電話と携帯電話」のようなペアで、しかも各々の後者が現れた直後(まだ世の中の人があまり使っていない状態)をイメージして下さい。

 まず左側の円の方ですが、これはそれまで慣れ親しんできて現在何の問題もなく使いこなしている技術やそれに伴う価値観ということで、対象は過去ということになります。したがってそこに含まれる様々な事象は全て確定したものであり、それを包括する円の形も大きさも確定していて、誰にでもよく見えるものです。

 これに対して右側の円というのは、新しく出たばかりで「海のものとも山のものともわからない」状態のもので、フレームワーク上は左右対称のきれいな形に書いてありますが、実は大きさも形も重なり具合も、あるいは形も新円ではなく楕円や星形である可能性だってあるのです(下図参照)。

©2020-Isao Hosoya

 したがって、本連載では「きれいな2つの円」で単純化して代表的に表現しているものの、実際のこれらの「2つの円」、特に2つ目の方の円はこのようなものであるとイメージしておいて下さい。

 では次にこれらの円の正体は一体何なのか、本連載のテーマであるものの考え方と合わせて考えてみましょう。先の比較表の後半にもどると、「過去」の象徴である1つ目の円は確定していることから誰にでも簡単に見ることができるのに対して、「未来」の象徴である2つ目の円の方は「目を凝らさないと」実際の形はよく見えません。あるいは目を凝らしている特定の人にしか見えないといってもよいかも知れません。過去は誰にでも振り返ることができるのに対して、未来というのは普段意識している人としていない人の差が圧倒的に大きくなるのです。

 さらには1つ目の円は既に経験していることであるのに対して2つ目の円はこれから経験するであろうことということになります。したがって、未来を見るためには、単に頭の中で考えているだけでなく、未経験でも「とにかくやってみる」ことが重要になってきます。「既に経験したこと」は誰にでも見えることを逆手に取れば、むしろ未来だと思えることも「とりあえずやってみる」ことで現実に見えるものにすることができるのです。

 ここまでの話をまとめて2つの円の正体は何かという問いに答えるとすれば、1つ目の円というのは「知識と経験」であり、2つ目の円は「想像と創造」ということになります。知識というのは1つ目の円と同様に過去の集大成であり、誰かが過去に出した答えの総集編ということになります。対する未来というのは、いまないものを想像することであり、さらにそれを形にしてみるという創造という側面も持っています。

 これを考慮すれば、人類の変化への対応の歴史というのは「知識力と創造力」のせめぎ合いによって起こっていることになります。一般に1つ目の円である知識の方がだれにでも見えやすいので、多くの人は知識力がある人を知的能力の高い人だと思っていますが、「世の中を変えていく人」はむしろ知識がある人ではなく、創造力がある人になります。もちろん創造をするには知識は必要となりますが、それでも知識を豊富に有していることは、新しい世界に対応する上での阻害要因にもなることは本フレームワークを通じて他の事例も示していくことにしましょう。