ちくまプリマー新書

「人気」以外の大学の実情がすごい!

『特色・進路・強みから見つけよう! 大学マップ』の書評を『大学図鑑!』の監修などを手掛けるオバタカズユキさんに書いていただきました。大学について詳しいオバタさんからみたこの本はすごさとは? 

 著者は世界一、「日本の大学」に詳しいジャーナリストである。論よりデータで徹底的に迫るタイプで、そのスタンスは一九九五年度版から三〇年間出版されてきた『大学ランキング』の編集統括の仕事を通して確立したものだろう。

 私事で恐縮だが、筆者も『大学図鑑!』という本を、二〇〇〇年度版から二五年間出し続けてきた。似たように分厚い大学案内書なのだが、小林スタンスとは逆で、データになりにくい各大学の校風や学生の気質、キャンパスの空気などを現地取材し、主観を排さず紹介している。

 だから、筆者にとっての小林哲夫は、同じジャンルを異なるアプローチで記述する先輩でありライバルだ。けれども、心情は同志のそれに近い。「小林さんが頑張っているのだから、俺も頑張れよ」と、膨大な情報処理にめげそうな自分の尻を叩く励みのような存在でもある。

 その彼が、『大学ランキング』最新版で集めたデータ、新たに方々から探し出したデータを駆使し、二〇二〇年代前半の「日本の大学」の実情を、人気や入試難易度といった有体な尺度以外の観点から見比べたのが本書である。

 テーマは、就職や進路、課外活動、教員の大学内外での仕事ぶり、卒業生の活躍、ジェンダーへの取り組みなど、彼の得意とするところを一通り。大量の固有名詞を詰めこんだ本文とランキング表からなるページの作り方もお馴染みなのだが、いざ読んでみたならば、やはり発見と感心がある。

 たとえば、警察官就職率で一六年連続日本一なのは日本文化大で、近年就職者数を伸ばしてきているのは環太平洋大だとか。国士舘大や日本大が警察官就職に強いことは知っていたが、日本文化大と環太平洋大は、恥ずかしながら、その存在からして覚えがあやふやであった。

 二〇二二年の日本銀行の採用では、「慶應義塾大14人、早稲田大12人、東京大11人、東京女子大7人、一橋大、立教大共に5人と続いており、その他津田塾大、日本女子大、大妻女子大、共立女子大、昭和女子大、同志社女子大から採用されている。これは長年、その女子大でもっとも優秀な学生を採用し、実際、日銀で活躍してきたという、伝統といっていい」。そんなに女子大卒がたくさん働いているのか。それらは総合職ではなく補助的業務を担う一般職採用が多いように思えるが、だとしたら日銀ってだいぶ遅れた世界?

 理系には疎いなと自覚させられたのは、運輸業界への就職だ。「芝浦工業大はJR東日本、JR東海にはめっぽう強い」「JR東海の技術者には名城大出身者が多い。(中略)なかでも理工学部交通機械工学科出身者が活躍している。同学科では鉄道車両に関わる工学を学ぶ」。知らなかった。地方の私立大には弱いのだ。「へえー!」と一般読者並みの感想しか出ない。

 ……とまあ、挙げだしたらキリがないのだけれども、就職のパートを読むだけでも、意表を突く発見があり、著者のマニアックともいえる知識量に感心するのである。そういえば、小林哲夫は少年時代、鉄道ファンであった。

 そしてまた、青年時代の彼は社会運動エリアにいた。その経験は『高校紛争 1969―1970』『平成・令和 学生たちの社会運動』などで実を結んでいる。本書でも、最近の学生の社会運動を紹介する。「学生の参加がもっとも多かったのが、気候温暖化対策を求める運動だ」。大学名で挙げられているのは、「東北大、宇都宮大、東京学芸大、慶應義塾大、国際基督教大、聖心女子大、東海大、明治大、明治学院大、立教大、立正大、早稲田大、都留文科大、静岡大、京都大、大阪市立大、関西大、九州大、鹿児島大など」。たしかに大きな広がりだ。

 他の運動では、性の多様性の尊重、入国管理や難民問題、高等教育無償化がテーマだったという。意外に今の学生は活発ではないか。例外的少数派だとしてもである。

 いずれにせよ、一読で今時の大学イメージが変わる一冊だ。