ちくま大学

ジェイン・ジェイコブズなら何と言ったか
第1回から第3回まで

 みなさん、こんにちは。ちくま大学事務局です。弊社では2014年から「ちくま大学」と銘打って、ゼミ形式の講演会を開催しています。本を読むのは素晴らしいことですが、実際に書き手の方に会って、直接話を聞き、自分から質問するという体験には、本を読むのとはまた違う、格別の良さがあります。こちらでは、現在開講中の講座の様子をダイジェストにてお届けします。

 さて、現在「ちくま大学」では、アメリカの運動家・思想家ジェイン・ジェイコブズの生誕百年を記念して「ジェイン・ジェイコブズの思想と行動」という講座を開催しています。ジェイコブズの名前をご存知ない方も多いと思いますが、都市開発や建築の分野では半ば神様のように扱われている存在で、国やディベロッパーが進める再開発計画に異を唱え、20世紀の都市計画のあり方を根本から変えた人物とまで言われています。このジェイコブズの思想と行動が、近年、都市開発の世界だけではなく、経済学、倫理学の分野からも注目されています。
 本講座では、都市計画の宮﨑洋司さん、経済学の塩沢由典さん、倫理学の平尾昌宏さんをお呼びして、それぞれの立場からジェイコブズの思想の意義を語っていいただいています。これまでのお話を簡単に振り返ってみましょう。

第1回「都市思想家としてのジェイコブズ」(1月22日)
                     講師 宮﨑洋司さん

 2020年の東京オリンピックに向け、虎ノ門新駅や第2、第3の虎ノ門ヒルズなどの大規模再開発が計画されていますが、ジェイコブズが生きていたら何と言ったでしょうか?

人が町をつくる

 ジェイコブズは1916年5月4日にアメリカ、ペンシルバニア州に生まれました。都市思想家としての彼女を有名にしたのは1961年に刊行した『アメリカ大都市の死と生』です。この本でジェイコブズは大規模再開発を厳しく批判し、ジャーナリストとして、また活動家として、ワシントンスクエアを貫通する幹線道路計画の反対運動の先頭に立ち、ニューヨークの公共事業を仕切ったロバート・モーゼスの計画を阻止したりしました。
 しかしジェイコブズは、何にでも反対したわけではありません。防犯や交通渋滞など、改善すべきは改善しなければならない。問題は、今まであった町の生命力や歴史といったものを無視した開発にあって、経済活動を生み出す源となる、生き生きとした雰囲気や土地の持つ多様性が失われてしまうことだと言います。人々が町をつくりだしたのであって、外から与えられた町という外枠が人々の暮らしをつくりだしたのではない。建物や巨大な区画ありきの計画は、まるで何もない土地に、模型のような都市を建築し、人々をそこに放り込んで、一から暮らしはじめさせるようなものだとしてジェイコブズは強く糾弾しました。

ジェイコブズが生きていたら

 もちろんそうした計画を良しとする立場もあります。たとえば都市経済学者E.グレイザーは「高層ビルでも1階に小売店舗やレストランがあればじゅうぶん面白みが出せる」「古い低層建物の保存は新規供給を阻害し、需給関係から家賃を上昇させる」などとしてジェイコブズを批判しました。しかし、東京の、賃料の高い、似たような商業ビルに似たようなテナントが入っている状況をみると、はたしてどうでしょうか。
 ジェイコブズは、実際、町づくりにも参加しています。批判、反対にとどまらず、代替案を作成し、政治家を巻き込む行動力がありました。直接手掛けたものとしては、ウエストビレッジハウス(NY)、セントローレンス近隣地区(トロント市)があります。後継者たちによる町づくりの実践例として、パール地区(オレゴン州ポートランド市)、キャッスルフィールズ(マンチェスター市)、キング・スパダイナ地区(トロント市)、アーツ地区(リバプール市)などがあります。
 ジェイコブズの影響力はいまなお大きいものがあります。講義の冒頭でこう問いかけました。「ジェイコブズが生きていたら何と言っただろうか?」実はこの問いは“WWJJD?”(What Would Jane Jacobs Do?)という成句になっているのです。

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