ちくま学芸文庫

沖縄の美

柳宗悦『琉球の富』刊行に寄せて

柳宗悦が沖縄文化のすばらしさについて綴った論考をまとめた『琉球の富』の刊行に寄せて、日本民藝館学芸部の古屋真弓さんにエッセイを寄せていただきました。日本民藝館では6/23(木)~8/21(日)の会期で、「復帰50年記念 沖縄の美」展を開催します。

 一九三八年の暮れ、柳宗悦(一八八九~一九六一)は長年想いこがれた沖縄訪問をようやく叶えます。学習院時代の同級生・尚昌侯を通して沖縄の品々に触れる機会があったり、昭和の初めころに琉球に滞在した陶芸家の濱田庄司が持ち帰った工芸品を目にするなどして、その魅力に心躍らせていた柳にとっては、まさに念願の旅でした。訪れた島で目にしたものは想像以上の驚きであったのでしょう、「こんな世界がよくも地上に残っていたという感じがする」と手紙にしたため、「まるで宝の山に入ったような想いでありました」(「沖縄の想い出」)、と述懐しています。一回目の滞在は二週間ほどでしたが、帰京後すぐに二回目の沖縄行きを計画し、計四回にわたり訪れています。

 沖縄では、精力的に各地を歩きまわり、工藝調査や風物の撮影に励みました。また古着市や荒物屋などに足しげく通い、織物や紅型、漆器などを蒐集していきます。濱田や同じく陶芸家の河井寬次郎、染色家の芹沢銈介、染織家の柳悦孝ら同行した作家たちはそれぞれ工房に滞在し、実際に制作を学びました。沖縄への訪問は単なる遊びや思いつきではなく、真理や美を追う「私たちの生涯をかけた仕事」だと柳は述べています。彼らが心揺さぶられたのは工藝だけではありませんでした。踊りや音楽、言葉、自然、建物、墓、風俗風習など、文字通り島で目にし手に触れるものすべてを絶賛しました。同時に、沖縄の文化や仕事がいかに稀有で素晴らしいものかを土地の人々に説き、誇りを持つよう鼓舞し続けました。

 そして雑誌「工藝」九九号(特集「琉球の陶器」一九三九年一〇月五日発行)、一〇〇号(特集「琉球の風物」一九三九年一〇月三〇日発行)、一〇三号(特集「首里と那覇」一九四〇年一〇月一〇日発行)と立て続けに沖縄を取り上げ、また一一三号では想いの布とも呼ばれる伝統的な織物「沖縄の手巾」のみで一号を組んでいます。このことだけ見ても、柳の沖縄に対する熱量が感じられるでしょう。

 四回にわたる沖縄訪問の間に夢中になって集められた品々は日本民藝館に収蔵されており、幸いにも戦禍をまぬがれました。今回、沖縄が日本に復帰して五〇年の節目に開催する展覧会「沖縄の美」(六月二三日~八月二一日)では、所蔵品の中から選りすぐりの名品を紹介します。型紙を使って文様を染めていく紅型はまず筆頭に挙げられます。華やか且つ清澄な色遣いは、沖縄の空や太陽の光を思い出させてくれます。フリーハンドで糊引きをして文様を描くうちくい(風呂敷)は伸びやかな魅力があります。毎日夕方六時から開かれていたという那覇の古着市を心待ちにしていた柳が夢中になった織物は、芭蕉や苧麻、木綿、絹などさまざまな素材が用いられ、地域ごとに特色のある多彩な美しさは見飽きることがありません。中でも沖縄北部の大宜味村で作られる芭蕉布は、「醜いものを選ぼうとしても無駄である」と絶賛し、『芭蕉布物語』という一冊の本を著したほどです。さらに、技法も形態も多様な陶器、漆器などとあわせて、今回の文庫版にも収録された戦前の沖縄を紹介する貴重な写真も一部展示。文庫版に新たにまとめられた一三篇の論考や写真からは、理想とする人間の営みを見た柳の感動が伝わってきます。展覧会とともに柳の文章をご一読いただくことで、地図上で見れば小さな点の集まりである島々は、独自の伝統と祈りに裏付けされた生活から生まれた「美の宝庫」であることを、柳らが体感した空気感を持って感じられるのではないでしょうか。皆さまが、沖縄へ想いを馳せる機会となれば幸いです。

2022年6月23日更新

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古屋 真弓(ふるや まゆみ)

古屋 真弓

1974年生まれ。東京都出身。ICU在学中より民藝に関心を持つ。国際交流基金などの仕事を経て、2009年より日本民藝協会、2014年より現職。国際関係、広報、教育普及を主に担当している。2022年6月23日から開催される「復帰50年記念 沖縄の美」展を担当。

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