東京β

東京とはどのような都市なのか

はじめに

速水健朗さんの新刊『東京β――更新(アップデート)され続ける都市の物語』の刊行を記念して、「はじめに」と「第3章 東京のランドマーク変遷史――東京タワーからスカイツリーへ」を大公開!
6月3日19時よりHMV&BOOKS TOKYOで刊行記念イベントもあります。気鋭の宗教学者・岡本亮輔さんと観光都市TOKYOをめぐるトークです。観覧フリーなので、ぜひお立ち寄りください。
速水健朗さん×岡本亮輔さんトークイベント 〜観光都市TOKYO、過去から見るか? 今から見るか?~ ※このイベントは終了しました

 東京の街は、常にその姿を変化させている。

 東京の街角に何か新しい建築物ができたなと気がつくことがあっても、かつてそこが何だったのかは、もう思い出せはしない。そんなことはあまりに当たり前になりすぎていて、誰も思い出そうとすら考えないのだ。東京とは、そんな街である。

銀幕の東京 ―― 映画でよみがえる昭和』を書いた川本三郎は、「普請中」「建設中」であることを「宿命づけられている」と東京について書いた。ヨーロッパの歴史のある都市であれば、100年前の姿であっても残っているが、東京の場合は100年はおろか、50年前であってもその姿はまったく違うものになっている。

 震災、戦禍、高度経済成長、バブル経済。消失と乱開発を繰り返してきた東京。東京ほど、かつての姿を後世に残していない都市は世界にも例がない。

 だが、かつての東京がどんな場所だったか、そこにどんな生活や文化が存在していたのかを振り返る手段はある。さいわいなことに東京を舞台にした映画やドラマ、さらには小説やマンガは数多く存在している。これらの中には、かつての東京がそのまま封じ込められているのだ。

 本書は、東京論である。かつての東京の姿が伝わってくるフィクション(映画、ドラマ、小説、マンガ)を数多く取り上げている。ただただ東京が写っていればいいというわけではなく、〝都市の変化〟を意識的に描いている作品を論じている。

 すでに触れたように、この街に住むものにとって、東京の風景の変化は当たり前のものでしかない。筆者もすっかり開き直り、いまさら東京の変化を否定的に考えるつもりもなくなっている。従って、本書は懐古趣味という視点から東京の過去の風景を眺めるという内容にはなっていない。むしろ、街の変化を前向きに捉える視点は、都市というものの本質を理解するためには必要なのだ。都市は、現在その街に住んでいる人たちだけのものではなく、これから住みたいという人のものでもある。街の変化を受け入れないという姿勢は、大げさに言えば既存住民の論理であり、既得権益の過剰保護でもある。良い都市とは常に変化し続ける都市のことである。開き直るとそういう結論に至る。東京の歴史を語る際に、いちいちノスタルジーなど感じてはいられない。

 その意味を込めて本書のタイトルは、『東京β』とした。ソフトウェアやウェブサービスなどにおいて正式版をリリースする前に発表する「試用版」をβとする習わしがある。永遠に完成しないという意味合いを含めてβと命名することがITの世界で流行ったのは少し前のことだ。本書は2009年から4年間、紀伊國屋書店出版部が刊行する『scripta』というフリーペーパーにて掲載されていた連載を元に、大幅加筆修正したものであり、書籍化の題名もこの当時付けたものをそのまま使用することにした。完成せずに更新され続ける街をテーマにした都市論であることを示すのにふさわしい題名だと思ったからだ。

 連載時の4年間にも、東京の街は急速に変化し続けていた。本書は東京論であるにもかかわらず、従来の東京論では必ず触れられてきた渋谷、秋葉原などの街に関する言及が極端に少ない。その代わりに、これまでは語られる機会が少なかった湾岸の埋立地などに重きを置いている。

 1964年の東京オリンピック以降の東京は、新宿、渋谷といったターミナルを中心とした西側が発展してきた。本書では、その〝西高東低〟とも呼ばれてきたような東京の発展の傾向から、それを脱して次の段階へと移行しつつある東京の変化を捉えたつもりである。湾岸の埋立地を始め、水辺の東京が次なる発展の現場である。

 東京を舞台とした作品は、無数に存在する。個々にはバラバラの作品群が存在するだけだが、それらを全体として俯瞰すると、街の変遷のイメージが積み重なった地層をなす堆積物に見えてくる。こうした堆積物としての都市の記録の束を発掘することで、東京の変化を探る。それが本書の目的である。

東京23区マップ

『東京β―ー更新され続ける都市の物語』特設ページ

2016年6月1日更新

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速水 健朗(はやみず けんろう)

速水 健朗

1973年、石川県生まれ。コンピューター誌編集者を経て、2001年よりフリーランスの編集者、ライターとして活動中。専門分野は、メディア論、都市論、ショッピングモール研究、団地研究など。TOKYO FM『速水健朗のクロノス・フライデー』パーソナリティ。主な著書に『1995年』(ちくま新書)、『東京β』(筑摩書房)、『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『自分探しが止まらない』(ソフトバンク新書)、『ケータイ小説的。』(原書房)、『東京どこに住む』(朝日新書)など。

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