加納 Aマッソ

第33回「あなたはいま幸せですか?」

 10代の最後に芸人をはじめた私は、当たり前のように成人式の参加をパスした。キレイな振り袖を着て地元の友達と仲良く写真を撮るなんて、アホか、反吐がでるぜ、なんて思っていた。まわりの大人から「一生に一回やねんから」と言われるたびに、「やかましわ」と言ってひねくれた。冷静に考えると、何一つやかましくはない。もっともなアドバイスである。
 今となってみれば何をそんなにカリカリすることがあったのか、ほんの数時間で終わる友人たちとの思い出作りくらい気軽に参加しとけばよかったのに、とも思うが、そんな些細な片意地の張り方こそが私を象徴している気もする。そのまま大人になったらあとあと苦労することになるよ、とあの頃の私に言ってやりたいが、言ってもどうせ聞かないだろうし、そんなやつは痛い目をみて覚えていくしかない。あー痛かった。
 行っておけばよかった、とハッキリ後悔したのは数年後だった。仲のいい友人から、あの日成人式が終わってから母校の小学校に行き、当時埋めたタイムカプセルをみんなで開けたと聞かされた時だ。
 タイムカプセル。卒業間近の冬の教室で、「未来の自分へあてる」という初めての行為にワクワクした気持ちで手紙を書いたのを覚えている。私は同級生の誰よりも胸を高鳴らせていた。他の子が書き終わっているのに、私はなかなか文章が決まらなくて、書いては消してを繰り返した。そんな一生懸命に書いた小学6年生の手紙を、読むことができなくなってしまったのだ。悔しい。読めないとわかったら余計読みたくなってくる。このときまでタイムカプセルの存在を忘れていたことも、もういっちょ悔しい。「一生に一回やねんから」がこれほど効いてくることになるとは。
 いったい私はその手紙になにを書いただろう。後に芸人を志すようなお調子者のことだから、一つや二つぐらいボケを入れたりしているだろうか。いや、多分そういうときの私は変に考えすぎて、生真面目な文章になっている気がする。となると、おそらくタイムカプセル然としようとして、タイムカプセルの定番である「あなたはいま幸せですか?」的なことを書いていそうだ。うわー。「あなたはいま幸せですか?」だったら嫌だ。未来の私からすれば、小学6年生の子どもから取材される筋合いはないし、ハテナで終わっているのもむかつく。あと返事できないのをわかってて聞くな。しかしかといって「私はいま幸せです」だったとしても、それはそれでむかつく。お前に幸せの何たるかがわかるか。ていうか知ってるし、お前が幸せやったことは。
 一生に一回を逃した後悔というのは、成人式のようなメインよりもむしろ、「タイムカプセルのダメ出し」のようなサブのほうが、心の中で大きくなるものらしい。

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