加納 Aマッソ

第69回「ひょっとして?」

「何やそれは」という話ではあるが、実家に滞在中、母親が最近買ったという浮世絵の画集をぼーっと見ていた。ふとその中の一枚が目に留まった。
「誰やねん」と思う人もいて当然だが、それは歌川芳員という人の絵であった。詳しい人は「ひょっとして?」とピンとくるのかもしれないが、芳員は歌川国芳の門人であるという。「なんでそこは忘れんねん」と怒られるかもしれないが、絵のタイトルはどうも思い出せない。
 「どういう状況?」と戸惑うかもしれないが、絵には、大量のカエルたちが折り重なり、天を仰いでどこかの寺院のような建物を夢想している様子が描かれている。一見、カエルたちは高さのある岩肌に身を置いているように見えるが、盛り上がったその物体は全てカエルである。上に乗ったカエルに下のカエルが踏まれて体がひっくり返っている。「きも!」と嫌な顔をされそうだが、全然きもくない。見惚れた。
 「それを先に言えや」とどつかれそうだが、これが目に留まったのには理由がある。あれ、この感じ最近見たぞ、と思ったのだ。しばらく考えてわかった。「みんながみんな観てると思うなよ」と戒められるかもしれないが、ジブリ映画最新作の『君たちはどう生きるか』の1シーンであった。
 「勘弁してくれや」と再び嫌悪感を持たれたら申し訳ないが、川の中から次から次へとカエルが湧いてきて主人公の体をよじ上っていき、あっという間に全身をカエルが覆い尽くすという印象的なシーンがあった。
 「自分だけが特別な推理力があると決して思い上がるなよ」と釘を刺されそうだが、私はカエルの描写が似通っていることから、もしかしたら宮崎駿も浮世絵をたくさん見ていたのでは?と想像した。芳員の師匠である国芳は、動物の擬人化を得意とした浮世絵師であるという。映画の重要な登場キャラである青サギも時に人の姿となる。「それ以外に手法知らんのか図書館行け図書館アホが」と年配の人に罵られそうだが、パソコンで宮崎駿と浮世絵の関係性を検索する。
 「さらに誰やねん」と言われそうだが、調べているとイヴァン・ビリビンという20世紀初頭のロシアのイラストレーターが出てきた。「どうでもええねん読んでるテンポ崩れること言ってくんな」とキレられそうだが、イヴァン・ビリビンはイワン・ビリービンと表記されることもある。宮崎駿はビリビンから多くの学びを得た。そのビリビンは、日本の浮世絵の影響を受けたとされている。そしてビリビンにも「カエルの王女」という作品があった。「何がつまりやねん伸ばし棒使うなそろそろしばくぞ」と思われても仕方がないが、つまり、逆輸入みたいな感じかー、と納得した。
 「無理やり話繋げんなや自慢したいだけちゃうんかもう何回エッセイ書いてきてんねんいい加減上達しろや」と思われたらもうぐぅの音も出ないが、今年短編映画でカニから生まれた子の役を演じた。「は?」と言われるだろうが、父親がカニだった。「ちがう」と言われるだろうが、これも擬人化の流れを汲んでいると思う。動物の造形への憧れというものは、今も昔もずっと変わらない。「カッコ多いねんやめろ」と思われるだろうがカエルよりはましだ。カエルは増殖する。カニも世界進出。みんな憧れているのだ。「どこ?」ほらそこ。「どこやねん」そこそこ。「どこやねんってば」ゲコゲコ。「もうええわ」チョキチョキ!
 「オチどうなってんねん」と言われるだろうが、最初にことわっておいたので問題はない。
 

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