昨日、なに読んだ?

File29. 加納愛子(Aマッソ)・選:隣のクラスの面白かったあいつ、今どうしてるかなと思った時に読む本

岸本佐知子『ねにもつタイプ』『なんらかの事情』

紙の単行本、文庫本、デジタルのスマホ、タブレット、電子ブックリーダー…かたちは変われど、ひとはいつだって本を読む。気になるあのひとはどんな本を読んでいる? 各界で活躍されている方たちが読みたてホヤホヤをそっと教えてくれるリレー書評。 【Aマッソ・加納(お笑い芸人)】→→佐藤文香(俳人)→→???

 駅前にぺろんと伸びている、閑静な住宅街にありがちな頼りない商店街を歩いていたら、学校帰りの中学生の女の子2人が忍者ごっこをしていた。昼下がり、日が沈むまでにはまだもう少し時間があった。午後の授業が早く終わり、さらにラッキーな事に何かしらの理由で部活も休みになったのであろうか。はたまた二人とも帰宅部であるのか。とにかく二人は、夢中だった。一人がお決まりのニンニンポーズで、電信柱から電信柱までをふざけた走り方で横切る。それを見ているもう一人が締まりのない顔でゲヘゲヘと爆笑しながら「くらえ手裏剣〜!」と左手に乗せた右手を高速でスライドさせていた。どっちも忍者なんや、内部抗争かな、伊賀vs甲賀かな、と私はこみあげるニヤけを抑えきれなかったが、それと同時に、一刻も早くその場から離れたくなって、歩みを速めた。その忍者ごっこの終わりを見ることに耐えられないからだ。私は知っている。その最強の忍者ごっこは必ず終わる。そして5年後、かつて忍者になるために突き立てていた指に、ネイルが光る。

 私は、忍者ごっこ以上の楽しみをついぞ見つけることなく、10年以上も人前でニンニンニンニンやっている。天気が悪い日はむなしい。忍術が通用しないこともしばしばある。そんな折、岸本佐知子さんの『ねにもつタイプ』『なんらかの事情』に出会った。おった! まだ忍者ごっこしてるやつおった! そういう身勝手な喜びが湧き上がった。エッセイだと思って手に取ると、きっと誰もが騙されるだろう。エッセイとは日常で起こったことや感じたこと、見聞などを綴るものだが、ここではそのどれもが入り口に過ぎない。そこから想像もつかないファンタジーへ突き落とされるのだ。「空想」という言葉には「空」が入っているので、何となくその世界に「飛ばされる」というようなイメージがあったが、岸本さんの世界には「突き落とされる」が正しいような気がする。通い慣れた通りの地面がパカッと開いて、気がついた時には目の前に知らない景色が広がっていた、といった感覚。そこでは岸本さんの生み出した忍者たちが、自由自在にふざけた忍法を繰り出しながら楽しそうに暗躍している。

 いろんな笑いがあるけれど、私は「何言うてんねん」が大好きだ。受け手が腹を抱えて笑いながら「何言うてんねん」と言うしかないものに出会った時、安い言葉だけど、人生って楽しいなぁと思う。それは、文章でも映像でも、実生活でも変わらない。岸本さんの文を読んで何度「何言うてんねんこの人」と肩を揺らしたことか。ただ、中学生の忍者ごっことは違って、岸本さんのエッセイは最後まで絶対に目が離せない。ラストの一行で最大の「何言うてんねん」が待っていたりするのだ。

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