ちくまプリマー新書

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『よみがえる天才5 コペルニクス』はじめに

長く天文学の伝統であった天動説を否定し、地動説を唱えたコペルニクスは、どのようにして固定観念を打ち破ったのか? ちくまプリマー新書『よみがえる天才』シリーズ最新刊より「はじめに」を公開します。

 「コペルニクスは天文学者だったのか」。地動説を提唱したのだから天文学者に決まっているじゃないか、と思った君が、もし宇宙の姿を専門的に研究する学問を生業とする学者のことを考えているとしたならば、その意味でいうと、コペルニクスは天文学者ではなかった。コペルニクスは大学で天文学を教えていたわけではないし、天文学の研究で生活の資を得ていたわけでもない。

 コペルニクスの生業は、カトリック教会の小さな司教管区の聖堂参事会に勤務することであり、今日で言えば、行政職の役人といったところだった。天文学の研究は彼にとってあくまで余技に過ぎなかった。しかしそれはただの暇つぶしではなかった。彼の生涯を捧げるほどの余技だった。

 そしてルネサンス時代を生きたレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロと同じように、彼は多面的な関心をもつ聖堂参事会員だった。法学、経済学、医学、文学、絵画、軍事、外交、財政、土地管理……、そしてこのうちの一項目として天文学が入っていたのだった。

 「天文学者コペルニクス」としただけでは捉えきれないその姿を追っていくことにしよう。そして天文学において、コペルニクスの天才はどこにあったのかを考えてみよう。

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