ちくま新書

中国語の世界は広くて、楽しい!

中国語は勉強しやすいし、話すと楽しい! そして中国、台湾、香港、東南アジア、北米……世界各地で話されており、その文化は広くて深い! 魅力的で楽しい中国語の世界を、中国語作家として活躍する新井一二三さんが語る『中国語は楽しい』(ちくま新書)の「はじめに」を公開します。

 中国語は楽しい。そのことをみなさんにお伝えしたくてこの本を書きました。
 詳細は本文に譲りますが、大まかにいうと、

第1章:中国語は文法がシンプルなのですぐに話せる。1行習ったら、10行しゃべれる。
第2章:1つ1つの音に高低があるので、中国語のすべてが歌のようで楽しい。
第3章:中国語の字体をはじめて統一した秦の始皇帝から伝統の破壊者・毛沢東まで、今日へと続く2000年以上の歴史はまるで冒険小説。
第4章:中国語は国連本部をはじめニューヨーク、トロント、パリ、ロンドン、東南アジア各地などいろいろな場所で通じる、いつも使える。
第5章:日本語で培った漢字についての知識がすぐに無料で応用できるので、中国語はお得感がたっぷりある。
第6章:中国語がわかれば台湾華語もわかる。
第7章:香港でいったい何が起きたかもよくわかる。
第8章:言語が道具などではなく、宇宙観や世界観の表現なのだということが、しみじみ実感できる。

「才能とは楽しむ能力のこと」だとは、何ごとについてもいえますが、中国語については特にそうです。なぜなら、中国語にはしゃべる喜び、聴く喜び、見る喜び、書く喜びに加え、識る喜び、食べる喜び、旅する喜びなどなど、おまけがたくさんついてくるから。
たとえば、水戸光圀が日本で一番最初にラーメンを食べたという伝説は、黄門さまが中国の儒者朱舜水を江戸の屋敷に招いて長く師事したがゆえです。識る喜びと食べる喜びはセットメニューでした。
 幕末の志士坂本龍馬はといえば、新婚旅行で唐船が出入りする長崎に行き、中国伝統楽器の月琴を愛妻おりょうに習わせたといわれています。当時の日本人は中国の歌を「清楽」と呼んで、弾き語りを楽しみましたから、識る喜び、聞く喜び、歌う喜びは3点セット。いわんや新婚旅行においておやでしょう。
 明治時代になってからも、随筆『武蔵野』で知られた作家の国木田独歩は、やはり月琴演奏が一番の趣味で、満月の夜によく爪弾いていたと語り継がれています。まんまるの月の下で月のように丸い弦楽器を爪弾く喜びときたら!
 時代を21世紀に戻すと、旅好きの人にとっては、中国語(華語)が通じる地域に足を運び、地元の人たちと交わす会話は、世界をこれまで見たことのなかった方向に広げてくれるはずです。
 私自身、旅の思い出をふりかえると、ボルネオ島西岸のシブという街で、肉まんを食べながら中秋の満月を眺めたときに、聞こえてきたのは地元の華人たちが繰り広げるカラオケ大会の歌声でした。パリの空港から乗ったタクシーの運転手さんはカンボジア華人で、英語はからきしだめなかわりに中国語がすごく得意でした。フィレンツェの鉄道駅で斜塔で知られるピサ行きのホームを教えてくれたのは、年老いた両親を連れて旅行中の中国人女性でした。中国だけでなく、どこに行っても、必ず中国語を話す人があらわれる。そのことを私は30年以上にわたり、繰り返し実感してきました。
 人類文明の特徴である言語は、人類のあらゆる活動に、常にかかわってきます。だから、あなたが文系でも理系でも体育会系でもオタク系でも、言語はいつも傍にあります。そして世界の言語のうちでも話者の数で上位に入る中国語は、あなたが何系であっても、かならず同じ趣味や関心を持つ中国語話者との間をつないでくれるはずです。
 中国語が少しでも気になる方、勉強の必要性に迫られている方、ぜひ本書をお読みいただき、普通よりもやや広めの視野を持って、この魅力的な言語を眺めてみてください。楽しそう、おもしろいかも、そう感じられたらまずは満点で合格です。自信を持って、中国語、華語世界への旅に出かけてください。