ちくま新書

映画業界とテレビ業界の対立を描いた伝説的なドラマ作品『マンモスタワー』をご存知ですか?
『東京タワーとテレビ草創期の物語』序章より

「史上最大の電波塔」が誕生し、映画産業を追い越そうとした時代――東京タワーが登場する現存最古のテレビドラマ『マンモスタワー』をめぐる若きテレビ産業の奮闘を描き出した本書より、序章を公開します。

†東京タワーを「見る」
 東京タワーは1958年12月23日の開業以来、多くの人に愛され、親しまれてきた。白とオレンジを配色した333メートルのその巨大な鉄塔は、いまでこそスカイツリーに高さの面では追い抜かれたものの、まだ、東京に高層建築物がほとんどなかった時代に、エッフェル塔を超える世界一の塔という喧伝も相俟って大きな注目を集め誕生した。じつに開業翌年の1959年には、上野動物園の年間入場者数記録、360万人をはるかに凌ぐ、513万人の来場があり、こんにちまで、東京タワーは都内有数の人気の観光地であり続けてきた(『東京タワー一〇年のあゆみ』、85頁)。

 それでも、当然ながら、じっさいに東京タワーを訪れたことがない人は多くいる。ただ、そういう人でも、メディアを通して間接的にでも、その存在を目にはしているはずだ。東京タワーはメディアが映し出す被写体にもなりやすく、そのことがまた、国民に親しみを持たせ、場合によっては来場させる動機付けにもなっている。

 映画やテレビドラマなど、映像メディア作品においても、東京タワーはとても好まれる。東京のシンボルとしてか、魅力的な場所としてか、はたまた、その造形自体への評価ゆえか、その理由はいろいろあれど、東京タワーが被写体として映える存在であり続けていることには変わりない。ゆえに、東京タワーは、これまでいく度となく映画やテレビドラマなどの作品世界を彩り、見る者の心を捉えるような重要な役割を果たしてきた。

 有名なところで言えば、2005年から3作品作られた映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズがすぐに思い出される。3作すべて冒頭から東京タワーが印象的に映し出され、舞台となった昭和30年代のノスタルジックな光景に不可欠な存在となっている。

 テレビドラマに目を向けると、2017年のNHK連続テレビ小説『ひよっこ』では、1960年代半ばの東京で、主人公のヒロインが恋人と初めてデートする場所として東京タワーが登場し、開業当初のじっさいのタワーの映像が挿入されながら、かつての様子が再現して伝えられている。あるいは、東京タワーそのものズバリ、タイトルに含まれるリリー・フランキー原作の『東京タワー――オカンとボクと、時々、オトン』でも当然ながらタワーの存在は重要で、母親と息子の絆を描いた物語に欠かせないものとしてテレビ版、映画版ともに要所で登場する。こちらも一部で、昔のじっさいのタワーの映像が利用されている。

 実写作品だけでなくアニメ作品でも、東京タワーはしばしば作品世界に大きく貢献する。新海誠監督の代表作『君の名は。』(2016年)では、東京に強い憧れを持つ地方在住の女子高校生が、東京の気になる男子高校生に会いに、思い切って田舎からやって来るが、彼女が最初に電車の窓を通して目にするのが、東京タワーをはっきりと遠くに据えた景色だったりする。その女子高生の憧れの東京は、まず、東京タワーを含む車窓からの景色でスタートするのである。

 以上のように、東京タワーが作品世界に貢献し活躍するような映像作品を挙げていけばキリがない。本書は、そのなかでも、東京タワーがあの全貌とともに登場した現存する最古の貴重な映像作品『マンモスタワー』(石川甫演出)というテレビドラマに注目する。『マンモスタワー』は、現在のTBSであるラジオ東京テレビ(KRT)が、1958年11月16日の午後9時15分から10時35分までの「日曜劇場」枠で放送したドラマである。「日曜劇場」といえば、1956年12月にスタートし、いまなお続く大長寿番組で、じつに日本のテレビドラマ枠でもっとも長い歴史を持つものだが、『マンモスタワー』はその歴史的に重要な番組枠で、現存するもっとも古いドラマでもあるのだ(当時は、東芝が独占的スポンサーであったため、「東芝日曜劇場」として放送されていた)。

 こうして日本のテレビドラマの歴史のなかでも特別な価値を有している『マンモスタワー』は、東京タワーの歴史にも深く関わる。ドラマ放送はタワー開業の一ヶ月前であり、まだ完成には至っていなかったが、それでもアンテナが取り付けられ、333メートルの全貌が映し出されており、じゅうぶんに存在感を放っている。ドラマタイトルは、まさに人びとがいまだ見たことのない、その巨大なタワーを指し示すものであり、それゆえ、ドラマの内容も東京タワーに関連するものとなっている。

 とはいえ、本書が『マンモスタワー』に注目する理由は、このドラマが東京タワーを映し出した映像作品のいわば〈始まり〉だからというだけではない。くわえて、ドラマの内容も非常に興味深く、特筆すべき魅力を持っているからだ。

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