難民高校生

女子高生が性を買われるということ

『難民高校生』(仁藤夢乃 ちくま文庫)刊行記念対談

女子高校生の頃、街を彷徨う生活を送っていた仁藤夢乃氏は、その体験を描いた『難民高校生』をちくま文庫で刊行した。一方、桐野夏生氏は、『週刊朝日』で、連載小説「路上のX」の執筆にあたり、仁藤夢乃氏の『難民高校生』を読み、仁藤氏が立ち上げた中高生支援団体のスタディツアーにも参加したという。いま、女子高生を「JKビジネス」にさらそうとする社会の問題、そして「親子断絶防止法」の大きな問題点まで実体験をもとに語り合う。

●「路上のX」取材での出会い

桐野 私は「路上のX」(「週刊朝日」で連載した女子高校生を主人公とした小説)を書くときに、偶然ネットでColabo[注1]を知って、仁藤さんの著書『難民高校生』と『女子高生の裏社会』をKindleで買って拝読しました。居場所のない女子高生の、想像を絶する生々しいルポでした。現実があまりにすごいことに驚いて、小説がどこまでその現実を追いかけていけるのだろうかということで悩みました。簡単に書けるテーマではないと。だから、仁藤さんのご著書は、私にとってはショッキングな本だったんです。

 しかも、仁藤さんご自身の経験ですよね。その経験を逃げずにちゃんと書いて、なおかつ、いま同じような少女たちを助ける活動をなさっているというのが、立派なことだし素晴らしいと思いました。スタディツアーにも参加して、JK(女子高生の略)ビジネスの現場を見させていただきました。

[註1 Colabo 仁藤氏が立ち上げた支援団体。虐待や性暴力被害にあうなどした中高生世代の女子を支える活動を行っている。]

仁藤 それで連絡をいただいて、そのご縁で、桐野さんがお米をColaboに送ってくださったり、具体的なご支援もしていただいていますね。

●『難民高校生』を書いた頃

仁藤 10代の荒れていた頃に、「うちらがいつか大人になったら、そういう子たちの気持ちのわかる大人になろう。本にしよう」と昔の悪友と話していました。5年前、ちょうど私が22歳のとき、大学を卒業したら中高生にも大人扱いされるようになっちゃうなという気持ちがあって、その前に本を出したいという気持ちが強くなり、出版社に持ちかけて出版させていただいたんです。

 この本を書いているとき、一緒に暮らしているパートナーによると、私は荒れていたらしいです。自分に向き合う時間でもあったので、パートナーが家に帰ってきたら、私が椅子の上に足を上げて、タバコを吸いながらすごい態度でパソコンに向かって書いていたらしくて、そのときは10代の頃みたいに言葉遣いも悪くなったりしていたみたいです。これを書いたことで、もろに渦中にいた「当事者」から、「経験者」になれた部分があると思います。

 でも、そのときは書けなかったこともあって、今回文庫化にあたって20ページもあとがきを書かせていただいたんです。

 この本を書いてよかったと思うのは、自己紹介として読んでもらうことで、いま出会う女の子たちとの距離も縮まることです。すごく荒れた生活を送って危ないこともいっぱいしているような子が、眠れない夜に読んでくれたことがありました。また、ずっと心を閉ざしているような怯えた表情の女の子だったのが、半年ぐらい関わったあるとき、私に対する目線や態度が変わってきたなと思うときがあって、本人の中で何か変わったのかなと思ったら、私の本を読んで、私のストーリーを知ったと話してくれたことがありました。

桐野 「あとがき」は、仁藤さんの現在の活動にも通じていく過程が書かれているし、書き足されてよかったと思います。女の子たちも、仁藤さんの本を読んで、共感を持ってくれたのですね。言葉の力を感じるのは、そういう時です。出口のない人たちの、広い世界に行くためのドアになる。読んだ女の子たちの感想というのは、どんな感じなんですか。

仁藤 「共感した」とか「同じことを思っている人がいたんだ」とか言われたり、女の子に渡すときに自分の名刺みたいなカードを挟んで渡したら、それを栞みたいにして使っている子もいて。あとは、私が直接渡すだけじゃなくて、学校の先生や、子どもをサポートする団体の人とかが、その子にプレゼントしておいてくれて、そのあと会わせてもらったりということもあって。そうすると、この本をきっかけにいろいろ話せる。

桐野 まさにひとつひとつ開けては向こうの世界に行けるドアで、どんどん広がっていくわけですね。

仁藤 「この部分とか、超共感した」と、開いて見せてくれたり。

桐野 例えば、具体的にはどんなところに共感したのでしょう。

仁藤 大人に対する不信感の部分とか、変な男に流されていっちゃうところとか、友達との微妙な葛藤の部分というのもあります。また、自分が親に素直になれないことや、親にひどいことをされて、殺すか殺されるかぐらいに思ったこと、喧嘩に包丁が出てきたりすることとかも「うちもある」と言われたり。家族に対して「死ねばいいのに」とか自分が「死んでしまいたい」とか思っているときもあるけど、親もたまに優しくしてくれたり、お弁当を作ってくれたりする。親も完全な悪というわけじゃないし、愛情もあるのは感じているから、そこで揺れて、期待して、また裏切られて泣いてとか、そういう揺れにすごく共感してくれる子とかもいます。

桐野 まず、家庭の環境ということでしょうか。親との関係は、嫌だから離れるとか、そんな単純なことじゃない。子供は親を思っているし、できれば、親を助けたいと思っている。そんな健気な気持ちがあるのに、親に拒絶されたり、虐待されたりすると、どうしたらいいかわからなくなる。仁藤さんのご本には、そういう葛藤も正直に、しかもリアルに書いてある。文庫になれば、もっと手に取りやすくなりますね。

仁藤 読んでくれる人が増えたらうれしいです。

 
 

2017年3月29日更新

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仁藤 夢乃(にとう ゆめの)

仁藤 夢乃

1989年生まれ。中高生のころ、家庭や学校に居場所がないと感じ、街を彷徨う生活を送った。高校を2年で中退。その後、ある講師との出会いをきっかけに社会活動を始める。大学進学後、友人らが路上を彷徨う生活から抜け出せずにいることから一般社団法人Colaboを立ち上げ、シェルター運営等を通して、虐待や性暴力を受けるなどし孤立・困窮した中高生世代の少女たちの自立支援を行っている。

桐野 夏生(きりの なつお)

桐野 夏生

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞、1998年『OUT』で日本推理作家協会賞、1999年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞、2005年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞、2008年『東京島』で谷崎潤一郎賞、2009年『女神記』で紫式部文学賞、2010年『ナニカアル』で島清恋愛文学賞、2011年同作で読売文学賞を受賞。2015年、紫綬褒章を受章した。近著に『猿の見る夢』『奴隷小説』『抱く女』など。「路上のX」を「週刊朝日」で2016年1月22日号から2017年2月3日号まで連載。

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