素晴らしき洞窟探検の世界

第3回 死にかけても、洞窟に潜る。でも、Gが出たら即撤退!
『素晴らしき洞窟探検の世界』(ちくま新書)刊行記念

『素晴らしき洞窟探検の世界』(吉田勝次著、ちくま新書、2017年10月)の刊行を記念し、著者で洞窟探検家の吉田勝次さんと俳優の石丸謙二郎さんの対談を公開します。 今回は、吉田さんの日常生活や探険家としての未来にも踏み込みます。死にかけても洞窟に行き続ける「洞窟病」にかかった吉田さんの熱さが伝わる最終回です。

普段もベッドでは寝ない
石丸 狭いところを通れるか通れないかは、その人の柔軟性とも関わりがあるでしょう? 腕枕して寝てるけど、あれは他の人ではできないですよ。腕まわりが柔らかいよね。
吉田 体温を地面に奪われないために、体を浮かせて寝るんです。寝袋やマットがなくても、寝なきゃいけないので。
石丸 あれでグーグー眠れるんだから、すごい。お酒を一緒に飲んでたら、いつの間にか床にその姿勢でいて、「何だ?」と思ったら、寝てんの!

こんなふうに寝る。写真:畠山泰英(科学バー/キウイラボ)


吉田 毎日、そうやって寝てます。事務所でもそうやって床に寝てて、癖になっちゃった。ホテルでも、ベッドで寝るか床で寝るかは半々です。
石丸 ベッドで寝ることもあるんだ!
吉田 ベッドで寝るのは、どういう時だと思います?
石丸 なんだろう。床が汚い時?
吉田 ゴキブリです。
石丸 はははは。洞窟には、いないもんね。
吉田 いないことはないんですけど、ほとんどいません。ゴキブリは、高所恐怖症より克服できなさそう(笑)。
石丸 あははは。
吉田 洞窟にゴキブリがいたら、全撤収します。オマーンで新洞を見つけた時も、「これは大きいかも」と思ったんだけど、入って50メートルくらい進んだところでゴキブリが2匹ピューって飛んできた。その瞬間、「撤収!」と言ってて(笑)。もう少しゴキブリに耐えられる人間になったら、再チャレンジしたい……。
石丸 あはははは。奥にはもっといそうだもんね。

洞窟に潜って、さらに水に潜る
石丸 洞窟には水没して水に潜らないと先に進めないところがあるよね。これは、ほかのところとは別物でしょう?
吉田 はい。でも、「水があるから」と撤退していたら、先には行けない。
石丸 うん。
吉田 前に進むための方法があるなら、それを使って前に行くのが探検家だろうと。
石丸 うん、うん。
吉田 やっぱり奥を見てみたい。装備はあるわけだから、あとは自分が行くか行かないかだけ。洞窟の地図を見ると、だいたい、水か高い壁かにぶち当たって、そこまでで終わっていることが多いんです。
石丸 そうだよね。
吉田 洞窟で、水中に潜る人は少ない。ダイバーで、かつ洞窟をやるという人は少ないし、ものすごくリスクがあるから、日本でやっている人はほとんどいません。
 もともとダイバーだったこともあるから、怖さも知っている。それなのになぜやることにしたかというと、器材が良くなってきたというのもあるけど、年を取ったというのも大きいんです。若い時は、恐怖心が先に立って、踏ん切りがつかない。探検ってそもそも仕事ではないし、誰に強要されるものでもないから、避けようと思えばいくらでも避けられる。まして、周りに潜っている人がいない。だから、洞窟内で水没している所に来たら「はい、終わり!」と思って、安心したほどです。
石丸 ふふふ。
吉田 でも、年を取って経験を積んでいくと、その先にはすごい世界があるとわかるようになってくる。陸路で行って、新しい空間に出て、「ここ水没部の先で、抜けていたんだ!」ってわかることがあるんです。そういうのをたくさん見ると、「水路を潜ったらすぐ新しい空間が見つかるじゃん!」となる。これまで途中で諦めていた洞窟も、水没部を潜れば、僕にとって新たなターゲットになるんです。
石丸 うん。
吉田 「これだな」と。これからは全く新しい洞口を探すのと並行して、途中で水没部に当たって探検が止まっていた洞窟に潜っていこうと決意したんです。入り口から10メートルのところで水没してしまっている洞窟もあるわけですから。
石丸 うん。
吉田 奈良の山の中に、水没してる洞窟があるんですよ。水温が6度でめちゃくちゃ冷たい。とにかく、早く行って、早く帰りたい洞窟(笑)。ここでは、ほんと怖いことが多くて……本に詳しく書いたのですが、その洞窟では二度死にかけました。

洞窟潜水の様子。引っかかりそうなところがある。

関連書籍

勝次, 吉田

素晴らしき洞窟探検の世界 (ちくま新書)

筑摩書房

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