ぼくがこの本を書いたのにはわけがあります。
化学の歴史はおもしろい! ズバリこのことを読者のみなさんにわかってもらいたかったからです。
そのため、化学式は必要最小限に出すことにしました。学校時代の理科が苦手だった人にもたのしく読んで貰えるようにとやさしくわかりやすくを心がけました。
化学の歴史は、人類が火を利用し始めたときから本格的に始まっています。そして、化学は、さまざまな物質がどんな性質を持ち、何からできているか、自然界にある物質もない物質もどうしたら合成できるか、などを探究してきました。
化学は、一言で言うと、物質についての自然科学の一部門です。
とくに物質の「構造」と「性質」、および「化学反応」の3つを研究しています。この3つが化学の研究対象で、それぞれが関係し合っています。まず構造と性質を探究し、その研究結果を元に新しい物質をつくり出します。
私たちは、化学の研究や化学工業によって得られた多種多様な物質を生活に利用しています。金属、セラミックス、ナイロンのような合成繊維、ポリエチレンのようなプラスチック類などさまざまな物質が私たちの生活をゆたかに便利にしてくれています。
私たちがこのような物質を創り出す高度の技術を持てるようになったのは、物質の性質や構造、反応を研究する化学が発展してきたからに他なりません。
現在では、化学研究の成果を生かして、高性能な電池、非常に強い繊維、ファインセラミックスなど新しい物質や製品が次々と創り出されて、私たちの生活をよりゆたかなものにしています。
もちろん、一方では、化学の発展によって新しい物質がどんどんつくられていますが、その物質の大半は人体への毒性や環境に対する影響のデータが不十分な可能性があります。したがって、化学の発展でつくられてきた多種多様な物質の有用性だけに目を奪われると、取り返しのつかない環境汚染や公害を引き起こすことになりかねませんから十分な注意が必要です。
私は、小学校・中学校・高校初級の理科教育を専門にしています。中学校・高等学校の理科教師を長く務めてきました。教員のとき、中学校理科では物理・化学・生物・地学と全般を、高校では主に化学を教えていました。理科教師をしているときのモットーが、「家族の食事のときにその日の授業の話題で盛り上がるような授業をしよう」でした。理科の授業を通して、知って得をした、知って感動をした、知って心がゆたかになった、考えてわくわくした……というような気持ちを持てるといいなと思っていました。
そんな理科教師としての私のバックにあったのは、科学の歴史への興味です。私は、とくに、化学の歴史に興味を持っていました。物質の世界の謎に対して知的好奇心をいっぱいにしてそれを解こうとしてきた科学者・化学者たちの姿に魅せられたのです。理科教育者・化学教育者の書いた化学史の本があってもいいと思いました。
ぜひ化学の歴史の大きな流れを一緒にたのしんでもらえたらと思います。