PR誌「ちくま」特別寄稿エッセイ

身体を病んだ話
健康をめぐる冒険・2

PR誌「ちくま」6月号より海猫沢めろんさんのエッセイを掲載します。

 深夜ラジオと、それに伴う熊本~東京間の飛行機移動(自費)によって私の身体は異常を訴えはじめた。いわゆるパニック障害である。なんとか薬でごまかし、いい感じに酩酊したままイベントに出て半分眠ったままトークをしたり、ろれつが回らなかったり、傍から見るとけっこうヤバい状況が続いていたもののなんとか凌いだ。
 危機感を覚えた私は、他の病院で検査を受けることにした。気になるのは薬でも消えない首から背中にかけての痛みである。もしかしたら脳に問題が? そう思い銀座の「スマート脳ドック」なるものを受診。二万円以内で脳MRIが撮れて、しかもスマホで結果が見られる。ハイテクである。結果はとくに問題なし。
 次に、近所の内科で血液検査。これも異常なし。眼科での眼球検査も異常なし。さらに神経内科へ。聞き慣れない科だが、痛みを多角的に分析して調べるらしい。老先生の「MRIはとったか?」という質問に「はい。今はスマホで見られるんですよ」と答えると、「そんなわけはない! 写真だろ!」となぜか怒られる。写真もスマホで見られると説明すると「いや、そんなものはない!」とさらに怒られる。文明アレルギーなのだろうか。そういえばさっきから先生は「おい! 書類どこいったっけ?」と看護師にキレている。
「パソコン使わないんですか?」
「つかわん」
「検索とかもしないんですか?」
「しない」
ときっぱり。とにかくあんたは頸椎に問題ありそうだと言われ、またMRIを撮ることに。
 結果からいうとこの頸椎のMRIで異常が見つかった。頸椎の狭窄と膨張である。やっと原因が見つかってひと安心。さて次はこれをどうするかだが……頸椎には鍼が良いと聞いたことがある。ここは鍼に望みをかけて治療してみるか……六本木に故・勝新太郎や小泉元首相御用達の、ゴッドハンドと呼ばれる先生がいるらしい。ゴッドハンドだけあって初診が二万七千円、次から一万五千円と、普通の三倍くらいの値段である。だが、一回で治れば安いものだ。早速予約して行ってみる。頸椎に針を刺してそのまま動かす「運動鍼」という初めて体験する施術だが、貧血で一度倒れた……痛い。
 だがその結果、一回で痛みが消えた。
 すごい……なんなんだこれ。「三回は来なさい」と言われたので、素直に三回、計五万七千円(税別)背に腹は替えられないとはこのことか。理屈を聞いたら「それは長くなる。本を買うかインタビューしてくれ」と言われ、本を買ってみたが東洋理論なのでさっぱりわからず。
 安心したのもつかの間、一週間でさらにまた痛みが……とほほ。熊本に戻って、休んでいたジムに復帰。会長から「体調悪いなら、いい先生がいるよ。俺の腰、三回で治してもらったんだ」と言われて看てもらうと、めっちゃ楽になった。軽くさすったりしているだけなのに……なんすかこれ、氣ですか? 「ぼく理学療法士なので理屈です」どうやらスパインダイナミクスという理論がベースにあるらしい。日々のリハビリ法も聞いて実践しつつ、私はさらなる健康沼へ足を踏み入れていくのだった……。

PR誌「ちくま」6月号

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