素晴らしき洞窟探検の世界

第3回 死にかけても、洞窟に潜る。でも、Gが出たら即撤退!
『素晴らしき洞窟探検の世界』(ちくま新書)刊行記念

『素晴らしき洞窟探検の世界』(吉田勝次著、ちくま新書、2017年10月)の刊行を記念し、著者で洞窟探検家の吉田勝次さんと俳優の石丸謙二郎さんの対談を公開します。 今回は、吉田さんの日常生活や探険家としての未来にも踏み込みます。死にかけても洞窟に行き続ける「洞窟病」にかかった吉田さんの熱さが伝わる最終回です。

理想の洞窟
石丸 吉田さんが望む理想の洞窟は、どんな洞窟?
吉田 2つあります。1つは、何万年か前に人が来ていた痕跡はあるけど、そのあと、誰も来ていなくて、自分が2番目という洞窟。昔の人の足跡だったり、亡骸だったり、何かしら痕跡が残っているような。それを発見すると、その昔の人と時間を共有できるし、考古学的な楽しみもあるんですよね。
 考古学って遺跡を見つけて、そこから「昔の人はどんな暮らしをしていたのだろう?」とか色んな想像をして、考える学問じゃないですか。そんな考古学的な楽しさを、洞窟の楽しさと同時に味わえる洞窟は理想ですね。
石丸 2つ目は?
吉田 2つ目は、洞窟の狭い通路を抜けた先に、楽園がある洞窟。
石丸 あ~。
吉田 洞窟の場合、ライトを持ち込んで光を当てないと中の空間は見えないですけど、僕がその空間に光を当てたら、パッと楽園のような景色が見えるというような…。最近「洞窟って山のように雄大な景色もないし、狭いところばかりで、何が楽しいんですか?」ってよく言われるんです。洞窟には景色がないと思われているんですね。
石丸 景色はあるよね。
吉田 石丸さんは実際に行って見ているからわかりますが、知らない人は「狭いところばかり」と思っている。だから僕は、洞窟の中の景色の写真を撮っているんですよ。「地上にいると想像できない、夢にも思わないような景色に出会えるんだ!」と伝えたくて。そういうわけで、楽園のような景色がある洞窟は理想なんです。

楽園のような景色のひとつ。オーストラリア・アイスコーゲル洞窟(詳しくは本を参照のこと)


石丸 うん。
吉田 「人類で最も深い場所に到達した」という記録より、「すごい景色に出会った」というほうが、感動するんですね。今までにそんなふうに感動する景色をいくつか見つけたので、それで洞窟探検をやめられなくなったというのもあるんですよ。
 すごい景色を見つけちゃうと「洞窟病」にかかるんです。未踏の洞窟の中を進んでいて、すごい空間に出て、「うわーすごい! なんだこれは!」ってなると、「自分は選ばれた人間なんじゃないか」と錯覚しちゃうんですよ。
石丸 あー。
吉田 つらさを乗り越えてそういった場所に到達すると、自分を選ばれた人間だと思っちゃうんです。
石丸 連れて行かれてさえ思うもん。
吉田 そうですよね。
石丸 ましてや、それが未踏の空間だったらね。
吉田 僕の洞窟病は重症なんです。それに洞窟は、ひとつとして同じものがないから。

関連書籍

勝次, 吉田

素晴らしき洞窟探検の世界 (ちくま新書)

筑摩書房

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