丸屋九兵衛

第14回:愛国心を問われ頭より腹を抱えた日。わたしの結論はLOVE YOURSELF

オタク的カテゴリーから学術的分野までカバーする才人にして怪人・丸屋九兵衛が、日々流れる世界中のニュースから注目トピックを取り上げ、独自の切り口で解説。人種問題から宗教、音楽、歴史学までジャンルの境界をなぎ倒し、多様化する世界を読むための補助線を引くのだ。

 わたしが好きな黒人ゲイ小説『B-Boy Blues』シリーズは、主人公の二人、つまりインテリ編集者(20代後半)と、その恋人であるヒップホップなバイクメッセンジャー(20代前半)が、交互に一人称視点で語る物語だ。
 ここで取り上げたいのは第1巻半ばの展開。編集者である主人公は、ボーイフレンドの仲間たちと交流を試みる。ストリートなメンタリティを持ち、技巧を尽くした罵倒表現を尊ぶ彼らと、悪口の応酬を交わすことで親しくなるのだ。『スター・トレック:ディスカバリー』で言うところの「ヴァルカン式挨拶」だな。

主人公「君、態度はでかいけど、背が低いよね」
彼氏の友人「いま何ゆうてん」
主人公「体が小さいと言ったんだよ」
彼氏の友人「でも、肝心なところは大きいで!」(と自分の股間をつかむ)

 主人公は心の中で吹き出す。
 「なんでディックなんだ? どうして、いつもそこが重視されるんだ?」と。

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 状況は全く違うが、わたしもそんな気分なのだよ。

 どうしていつもそこなんだ?
 なぜいつも「日本が」「日本で」「日本に」「日本の」「日本を」と問われねばならんのだ?
 愛国心ばかりが重視される理由は?

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●遭遇、その1。

 本連載と直接関係する話だ。

 前々回にあたる『第12回:今こそ考える「原爆Tシャツ」のこと。そして贖罪と、「存在しない正義」について』。
 その回がアップされた直後、わたしが告知ツイートしていたら、「まず、日本は韓国を植民地にした事なんてないですよ。それに従軍慰安婦もありませんでしたよ。それに原爆で犠牲になられた一般の方になんの罪があったのですか?」と返信ツイートしてきた御仁がいた。
 そやから、「酷な言い方だが、本当に“何の罪もない”のか?」と問い直したのがわたしの文章やんか。そして、「日本による韓国の植民地支配」否定? Damn.

 挙げ句の果てに、彼はこう書いてきた。
 「1つだけ聞かせて欲しいです。日本は好きですか?」
https://twitter.com/kentaro65/status/1086169292796612608

 プフッ、なんじゃそりゃ!

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 今回もSFの大家、ラリイ・ニーヴン師匠の話をしよう。

 彼の一大シリーズ『ノウン・スペース』は、壮大な、あまりに壮大な偽歴史に基づいた未来小説集である。
 ま、それを言い出したら『スター・トレック』だってアーシュラ・K・ル・グインの『ハイニッシュ・ユニバース』だって、設定の根底にあるのは偽歴史だ。しかし、『ノウン・スペース』はホラの吹き方が『エイリアンvs.プレデター』というか『強殖装甲ガイバー』というか。何だか凄いのよ。

 『ノウン・スペース』の世界では、地球人の先祖はパク人という異星人だ。
 このパク人のライフサイクルは「幼生」「ブリーダー」「プロテクター」の3段階に分かれる。「幼生」というのは要するに子供だ。「ブリーダー」、つまり繁殖者というのは、地球人の大人の段階にあたる。
 さてパク人は中年に差し掛かると、パク星特産の「生命の樹」という植物を食べたくて食べたくて、辛抱たまらんようになる。で、その樹を食べると! 根の部分に寄生しているウイルスの作用で、脳が巨大化し、超知性生命体に変身! これが「プロテクター」だ。プロテクターとなった個体は、知性の貧弱なブリーダーや子供を守る守護神のごとき存在となるのだ。
 こんなパク人の一団が、銀河植民計画の一端として地球にやってきた。だが、地球の土壌には生命の樹が根付かず、その樹を定期的に食さねばならないプロテクターはみな死亡。当然ながらブリーダーから新プロテクターへの変身も不可能で、「知性に欠けるブリーダーが社会をリードする」という異常事態に。そのまま取り残されたいびつなパク人集団は……進化して地球人となった。古代のブリーダーの化石はたまに発掘されるが、我々現生人類には「ホモ・ハビリス」と分類されている。

 先ほどはプロテクターを「脳が巨大化した超知性生命体」と書いたが、むしろ「脳も筋肉も巨大化した、超知性戦闘マシン」と書くべきだったかもしれない。そう、マッスルも強化されるのだ。そして闘争本能も。
 プロテクターになると自分の子や孫の安全しか考えなくなる。というよりも、子孫繁栄至上主義に縛られた奴隷だ。それだけの知性を持ちながら、その本能のみに突き動かされる存在となるのだから。自分の血族の安全と繁栄を確保するためには、他の血統を根絶やしにする意欲満々。とてつもなく戦闘的かつ暴力的で、ゼノフォビック(xenophobic)で。
 そのため、パク人の母星では戦争が絶えないという。

 排他的ナショナリズムのルーツ(?)にして最高到達点、ここにあり。

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 なぜプロテクターは自分の血族を守るのか?
 子や孫は、自分の遺伝子を運んでいるからだ。
 親が子供に注ぐ愛情は全てそうだが、とても利己的なのである。

 いまだに「種の保存」神話を信じているアホがいるが、生物が真に執着しているのは「タネの保存」である。つまり、自分の遺伝子(のみ)を存続させ、占有率を高めていくこと。悲しいかな、生物はそのためだけに存在しているのだ。

 人間社会を例にとろう。いつだって最大の敵は同業他社だ。そして、生物学における「同業他社」とは? 同じ種の別集団である。
 自分の遺伝子が――それを受け継ぐ子孫が――生き残ることが肝心であり、自分が属する生物種全体の保存など、誰も気にしていない。それが証拠に、新たにメスの集団を傘下に収めたライオンのオスは、その群れの子供たちを殺す。自分の子作りの邪魔になるからだ。

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 要するに、他者を蹴落として生きるのは生物の本能なのだ。パク人プロテクターは極端な例にしても、実際、すべての生物は子孫繁栄至上主義の奴隷だから。

 とはいえ人間界のナショナリズムは、各個体の直系の血統ではなく、国家という中途半端なカタマリを対象にする。しかも、それを高尚なもののように喧伝するのが意味わからんわ。

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●遭遇、その2。

 過日、石井孝明というジャーナリスト(なの?)が辺野古に関してツイートしていた。その論理破綻&日本語崩壊が酷かったもので、わたしはツッコミを入れたのだ。
 すると、こんなツイートが返ってきた。

京都の文化がどうたら言う前にまず見ず知らずの私に汚い言葉を使うのやめなさい苦笑、日本の礼儀を身につけたら相手してあげる
https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1100346587027369985

 「京都の文化」というのは、開催直前だった我がトークライブ【京都“裏”検定】への言及である。こんな人でも、一応は相手の状況を調査はするんだな。

 とにかく。
 そもそも文章が不自由な人なので、真意は読みにくい。だが、この「京都の文化がどうたら言う前に」「日本の礼儀を身につけたら」が、「京都の文化」の前に「日本の礼儀」がマスト、という主張だとしたら……。

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 自分の群れに忠実なのは、集団で生きる動物の本能だ。ホモ・サピエンスとかいう種族も社会性動物であり、その個体は集団と関わらずに生きていくことはできない。うむ、それは事実だ。「狐独を好む」とかほざいているわたしにすら、それは当てはまる。
 しかし、「その集団とは、すなわち国家である」という思い込みは、わたしには謎である。なんで「まず国家ありき」なのだ?

 わたしにとって、世界の中心にあるのはもちろん自分である。
 中央に存在する自分から、それを取り巻く同心円状に帰属集団が重層的に拡大していく図を想像いただきたい。わたしの場合、「伏見<京都<関西<日本<東アジア<アジア<地球」という具合だ。この「関西」とか「アジア」にしても恣意的な切り取りであるのは事実だが、それはわたしの勝手である。だって、わたしのアイデンティティなのだから。

 わたしに言わせれば。
 国家というものは上記の通り、入れ子構造で何層にも重なった自己集団 in 自己集団の一つ、一階層でしかない。ゆえに、さも「人が人たる拠りどころ」であるかのように言われる理由がわからんのだ。
 歴史的経緯の中で、その国家なるものが――地方自治体のあれこれを超越する――主権を持つことになった(というか主権を持つ組織を国家と呼ぶ)のは理解しているが、それが個体にとってワン&オンリーな帰属先となるのか?

 これまた歴史的経緯から、たまたま関西は関東および以北の地域と同一の国に収まっている。でも、奥州藤原氏なり平将門なりがもっとうまくやっていれば、君たち関東人は我々から独立を達成し、今ごろ別個の国家として競い合う関係だったかもしれない。
 あるいは、朝鮮半島・三国時代の展開が少し違っていたら。朝鮮半島南部から九州北部を経て近畿地方に至るカタマリが一つの国家となっていたかもしれない。

 確かに現在の日本国の範囲は見ての通り(いや竹島とか国後とかいろいろあるか)だが、そんな偶然の産物に忠誠を誓えとおっしゃる?
 イヤだね。

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 マイケル・ムーアが「僕は白人が恐い」と書いていたのを思い出す。「生まれてこのかた、僕に苦しみをもたらしてきたのは白人だ」と。
 たいていの人がひどい目にあう場所は生活圏内。だから、これは道理である。自分に置き換えてみると「わたしに害を与えてきたのは日本人」となろう。残念ながら、これもまた事実だ。ロンドンでは白人から露骨にイヤな顔をされ、韓国の地下鉄でも日本人を歓迎しない空気を感じたりもしたが、それでも、わたしに最大の害をなしてきたのは間違いなく日本人だ。

 そんなわたしが、幾重にもなった自分の複合的・同心円状アイデンティティのうち、「日本」という範囲に限って愛さねばならない合理的な理由を一つでも挙げてみてくれ。

 「お前だって日本人だろ」という声もあろう。
 しかし。それ以前に関西人であることは間違いないし、それ以上にアジア人かもしれない。
 愛国心が愛郷心より優先される理由、愛洲心(この場合「アジア愛」)より重視される根拠はどこにある?

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 わたしの結論はこう。
 まずは自分を愛そう(you can't stop me loving myself)。そして、それと合致する限りにおいて、自分が望む範囲の自己集団を愛し、忠誠を誓おう。

 ラリイ・ニーヴンの世界に戻ると。
 守るべき子孫たちが死に絶えたりするとプロテクターは生きる気力を失い、やがては餓死に至る。が! プロテクトすべき対象、忠誠を誓うべき自己集団を「すべてのパク人」に拡大し、種族全体に貢献するために生き続けることを選ぶ者もいるのだ。

 だから同様に。
 「日本が」「日本の」を繰り返す人たちの自己集団愛が拡大して、いつか「人類」「地球」規模になることを祈る。

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無常の月 ザ・ベスト・オブ・ラリイ・ニーヴン (ハヤカワ文庫SF)

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