昨日、なに読んだ?

file6.丸屋九兵衛・選:
わたしをファンタジーの魔道に引きずり込んだ本

「幻想文学 第19号」、ピアズ・アンソニイ『カメレオンの呪文』、ジャック・ヴァンス『天界の眼 切れ者キューゲルの冒険』など。

紙の単行本、文庫本、デジタルのスマホ、タブレット、電子ブックリーダー…かたちは変われど、ひとはいつだって本を読む。気になるあのひとはどんな本を読んでいる? 各界で活躍されている方たちが読みたてホヤホヤをそっと教えてくれるリレー書評。 【丸屋九兵衛(bmr編集長)】→山戸結希(映画監督)→???

 Wikipediaには「丸屋 九兵衛(まるや きゅうべえ 生年非公開)は、日本の音楽評論家、編集者、ラジオDJ」とある。実際に、間違いなく音楽雑誌出身の編集者ではあるし、評論めいた文章を書いてきたのも事実だ。
 だがわたしは音楽書籍が嫌いなのだ。
 英書から翻訳して日本語が不自由な感じに仕上がっている舶来バンザイ系もイヤだが、日本人「評論家」たちによるディスクガイド本も、たいていはわたしの神経を逆撫でする。
 なのに。ブックガイドは、なぜこんなに愛おしいのだろう。

 と言っても、わたしが好むものは「SF&ファンタジー」と相場が決まっているから、ブックガイドもそのスジのものに限られる。特にこれ。『幻想文学 第19号』(アトリエOCTA)、通称「ヒロイック・ファンタジー特集号」だ。
 昨夜、この本を読み返していたのは、ヴィン・ディーゼルのせいだ。ま、詳しくはリンクを見て欲しいがね。
 http://www.tbsradio.jp/127612

 この「ヒロイック・ファンタジー特集号」、奥付には1987年7月15日発行とある。とはいえ、わたしが手に入れたのは90年過ぎだった気がするが。
 その頃のわたしはピアズ・アンソニイの『カメレオンの呪文』(早川書房)でファンタジー入門を果たしてから数年が過ぎ、すでにマイクル・ムアコックの『エルリック』や『コルム』を愛読してはいた。だが、その向こうにある諸作、あるいは、そのルーツにあるモロモロを渇望していたのだ。
 そんな折に出会ったのが、「ヒロイック・ファンタジー特集号」。そこで紹介されている小説の数々は眩い綺羅星のように見えた。プロレス的に表現するなら、「まだ見ぬ強豪」に魅せられまくった、というわけだ。
 紹介されていた作品たち……例えば、主人公たちが神話世界に飛び込んで冒険を繰り広げるユーモア系ファンタジー『ハロルド・シェイ』シリーズ(ディ・キャンプ&プラット著)は、その後すぐに入手できた。同じく神話が題材ながら、哀しくも美しいポール・アンダースンの『折れた魔剣』も、わりと早く我が家の本棚入りしたはずだ。
 一方、マイクル・シェイの『魔界の盗賊』を発見するまでは時間がかかったし、ロジャー・ゼラズニイの『影のジャック』に至っては、サンリオ文庫の古本を購入できたのが去年である。
 以上は「ヒロイック・ファンタジー特集号」のブックガイド部分で紹介されていたもの。だが、同特集はエッセイ類も素晴らしかった。特に、中村融が書いた「未訳のヒロイック・ファンタシーから」という6ページ。
 そこで取り上げられていたカール・エドワード・ワグナーの『ケイン』シリーズ、ロジャー・ゼラズニィの『ディルヴィシュ』シリーズは、程なくして日本版が出た。
 だが、ジャック・ヴァンスのピカレスク『天界の眼 切れ者キューゲルの冒険』(国書刊行会)が、ここ日本で日の目を見るまでの道のりは、とても長く……。その中村融自身の手により邦訳刊行されたのは、昨年末の話である。

 この「ヒロイック・ファンタジー特集号」を手にしたのは25年ほど前だが、この本はわたしの脳みそに消えない刻印を残した。
 以来四半世紀、わたしはファンタジー野郎として生きてきたし、ファンタジー野郎として死ぬだろう。「魔剣に生きる者は、魔剣で滅ぶ」というか。

 

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