ちくまプリマー新書

指遊びをしていたら、いつのまにか「数学」していた!?
『公式は覚えないといけないの?』より「序章」を公開!

数学は「どうして?」という学問なので、私たちは知らないうちに数学していることがある。そしてその「どうして?」を世界中の人に客観的に論理の破綻なく伝えるのが数学の世界。『公式は覚えないといけないの?――数学が嫌いになる前に』より序章を公開します。

知らないうちに数学している

 小学校では算数を学び、中学や高校では数学を学びます。学ぶ場所は、いわゆる全日制、定時制、通信制などの学校の他、塾やフリースクール、サポート校でもかまいません。どこにいるにせよ、若いうちは、どこかで数学を学びます。そして、学校で文系コースに入ったり、中学を卒業してすぐに仕事に就いたりすると、もう数学を学ばなくなります。一生涯。テストもしないでいいし、あぁよかった。

千佳:本当でしょうか。

亜理紗:私は文学を将来勉強したいと思っているので、数学とはおさらばかな、という気分です。

 実は……なんだかんだと、誰もが数学をしているということをこれからお話しします。いやいや数学の教科書なんて、中学卒業後触ってもいないから、あるいは文系選択した高校2年から見ていないから、だから数学なんてしてません、という人もいるでしょう。そういう人もしばしお付き合いください。本章を読めば、なるほど無縁と思っていたけど、自分は確かに数学している、と納得するはずです。

ウォーミングアップ

 話のとっかかりに、指遊びをしましょう。

 リング(指輪)がある人はそれを使うとドラマティックになります。リングがなくても問題ありません。

〈スタート〉まず、リングを左手の人差し指にはめてください(図0-1)。あるいは、左手の人差し指を右手の人差し指で指すこととし、以下の説明の「リング」を「右手の人差し指」と読みかえてください。

 そして、手順①から③のようにリング(あるいは右手の人差し指)を移動させてください。

手順①:好きな人の名前を思い浮かべる(例えばアリサ)。その名前の文字数だけリングを隣りの指に移動させる。リングは左右どちらに移動してもよい(図0-2は右のみに移動した場合)。行ったり来たりしてもかまわない(図0-3)。ただし、指を飛ばして移動させてはいけない。また、親指か小指に到達したら折り返すこととする。

手順②:①で止まった指から、①と同じ名前で①と同じことを繰り返す。

手順③:②で止まった指から、リングを小指の方向に・・・・・・「好き」の2文字分移動する。

 ここで、いったん本を閉じて、手順①から③をやってみましょう。

 図0-3は、オムライス・・・・・の5文字を思い浮かべて、リングを動かしたときの図です。

 選択する文字数は何文字でもかまいません。手順③が終わったとき、リングはどの指にはめられていますか?(右手の人差し指は左手のどの指を指していますか?)

 きっと、薬指のはずです(図0-4)。もし、薬指でなかったら、もう一度ゆっくりとやってみてください。

証明は必要か

 近くにいる友達や家族でワイワイやってみてください。最初に思い浮かべる名前が、何文字であっても、最後は誰でもみんな薬指・・・・・になるでしょう。

 いま、なんで? って思いましたね。

 そう思った瞬間から数学はもう始まっています。なんで? の理由を客観的に、論理の破綻なく、世界中の人に説明できて、世界中の人と共有できる言葉が数学です。そして、ひとたび正しく説明できたら、その説明は未来永劫正しい説明になるのです。この説明を「証明」と呼びます。実はなんで? と思わずに、そりゃ当然最後はみんな薬指になる、とすべての人が納得したら、説明(証明)は不要です。説明の必要がないですから。

千佳:思い浮かべる名前が、1億文字であっても、絶対に最後は薬指になりますか?

亜理紗:え、いや、うーん。たぶん、なると思います。

千佳:ちょっと心が揺らいだでしょう。

 自分たちが納得することと、自分たち以外の人が納得することは別のことです。説明(証明)が必要だと少し感じませんか?

 説明しましょう。ただ、この説明は納得している人は読まなくてもよいです。

説明の第1段階:手順①で思った名前の文字数が何文字であっても、手順②で同じことを繰り返すので、手順②が終了した時点では、スタートの左手の人差し指から移動した文字数は、最初の文字数の2倍の文字数になる。つまり文字数は偶数になる。例えば、オムライス・・・・・の5文字は、手順②が終了した時点で2倍の10文字になる。10は偶数だ。

説明の第2段階:左手の人差し指から偶数回リング(右手の人差し指)を移動させると左手の人差し指か薬指に移動する。そして、好き・・の2文字で、人差し指にあったリングは薬指に、薬指にあったリングはまた薬指に移動するので、結局、最後は薬指になる。

 この説明で十分ですが、数字を使った説明をすることもできます。

別の説明の第1段階:左手の親指から小指に向かって、10101と番号を振る(図0-5)。

別の説明の第2段階:左手の人差し指は0なので、奇数回移動すると1の指のどれかにリングがはまって、偶数回移動すると0の指のどちらかにリングがはまる。いずれのの指にしても、そこから好き・・の2文字分移動すると、薬指の0にリングがはまる。

 説明はともかく、好きな人の名前を思い浮かべたら最後は薬指にリング、おしゃれだなぁ、と感じたら大成功です。最後は薬指、という事実が腑に落ちたならばそれで十分だからです。しかし、「なんで?」を解消するには、自分も相手も納得させる説明が必要になります。だから証明は、納得と説得のツールとも言えます。

序章のまとめ

・「なんで?」と思った瞬間から数学は始まっている。

・「なんで?」を解消する証明は、納得と説得のツールである。



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