丸屋九兵衛

第1回:多民族社会というスタジアムで、「きみはマスコット」と宣言されること

オタク的カテゴリーから学術的分野までカバーする才人にして怪人・丸屋九兵衛が、日々流れる世界中のニュースから注目トピックを取り上げ、独自の切り口で解説。人種問題から宗教、音楽、歴史学までジャンルの境界をなぎ倒し、多様化する世界を読むための補助線を引くのだ。

 わたしのような(ほどほどに伝統的な)黒人音楽ファンにとって、ある種の憧憬なくしては語れない土地。それがアメリカ中西部(ミッドウェスト)だ。
 もちろん「南部こそが米黒人音楽のルーツだろ」という声もあろう。だが、ブルースにしろソウルにしろファンクにしろ、ミッドウェストという土壌なしには、ここまで熟成しえなかったのではないか。
 特にオハイオ州。それはファンクというジャンルの揺りかごとして機能した土地であり、わたしにとってはまだ見ぬ(そして、見ないまま死ぬ可能性大の)魂の故郷でもある。

 騒ぎが起こったのは、そんなオハイオ州を代表する都市の一つ、クリーヴランドだ。
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 同都市を拠点とするMLB(メジャーリーグ・べースボール)の「クリーヴランド・インディアンズ」といえば、映画『メジャーリーグ』で知られるチーム。その映画の魅力もさることながら、わたしは同地出身のヒップホップ・グループ「ボーン・サグズン・ハーモニー」への思い入れもあって、インディアンズのジャージ(ユニフォーム)を2着、Tシャツを2枚持っている。

 そんなクリーヴランド・インディアンズが……
 「2019年シーズンから先住民族であるネイティブアメリカンをモチーフにした球団ロゴの使用をやめると発表した」のだ!
 (上記のカギカッコ内のみ、ハフィントンポストからの引用)
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 クリーヴランド・インディアンズの何が問題なのか?
 まずはチーム名だ。

 1960年代以来、黒人の「ブラック・パワー」に触発され、立ち上がったネイティヴアメリカンたちは――主にスポーツ界に向かって――宣言した。
 「我々はお前たちのマスコットではない」と。

 確かに、MLB、NBA(バスケットボール)、NFL(フットボール)、NHL(ホッケー)というアメリカ4大スポーツ界のチーム名を見てみると、カラス、イルカ、トラ、オオカミ、ジャガー、グリズリー、ヒツジ、カジキマグロ、タカ、ガラガラヘビ、スズメバチ……と動物オンパレードの観がある。
 そんな中にポツポツと目立つのがネイティヴアメリカンをモチーフとした球団。「ワシら動物扱いかい!」となるのも無理からぬところだ。
 こうして幾つもの米プロチームが糾弾されてきた。実際に名前を改めた団体や、先住民ふうイラストを廃止した球団もある。
 ネイティヴアメリカンが主張し始めてから半世紀が過ぎた今、現存する「先住民系ネーミング」のチームは……NHLのシカゴ・ブラックホークス、MLBではクリーヴランド・インディアンズにアトランタ・ブレーヴス、NFLのカンザスシティ・チーフス、ワシントン・レッドスキンズ、だろうか。

 とはいえ。
 アメリカには、人間をモチーフ/マスコットにしたチーム命名は、意外に多いのだ。
 ピッツバーグ「海賊ズ」、ミルウォーキー「ビール職人ズ」、シアトル「船乗りズ」、ワシントン「魔法使いズ」、サンディエゴ「神父さんズ」、ニューイングランド「愛国者ズ」……等々。
 だが、それらの名称のほとんどは民族ではなく職業に由来するもの。
 一方、「ネイティヴアメリカンであること」は自分で選択できるものではない。持って生まれたエスニシティである。
 カラスやイルカやトラやオオカミやジャガーが、カラスやイルカやトラやオオカミやジャガーであることをやめられないように。

 ただし、白人のエスニック・グループをモチーフとしたチームもある。ボストン・セルティックスだ。
 だが、その「ケルト人ズ」なるネーミングは「ボストンあたりはアイルランド系が多い土地」という背景ゆえ。一方の先住民にとっては、そもそも白人が来る前は全米が彼らのものだったわけで……。特定の地域に結び付いたマスコットにされること自体、言いがかりのようなものではないか。

 クリーヴランド・インディアンズの場合は「MLB初のネイティヴアメリカン選手Louis Sockalexisがクリーヴランドの別球団にいたことに敬意を表して」名付けられたと言われる(確証はない)……が、同選手が死んだのは100年も前の話だ。
今を生きるネイティヴアメリカンにとって、そんな「善意」の押しつけが何になるだろう。
 そんな彼らの目に、球団と経営陣が「我々のイメージを搾取して、営利活動に勤しむ白人ども」と映ったとしても、「狭量」と責められるだろうか?
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 クリーヴランド・インディアンズが抱えるさらなる問題は件の球団ロゴ、つまりチーム・マスコット。
 帽子やユニフォームの左肩にある「ワフー酋長」だ。

 我々部外者には「ニッコリと笑った、コミカルで愛嬌のある先住民」のイラストと見える。しかしネイティヴアメリカンにとっては、「ニヤニヤと歯を剥き出して笑う、赤い顔でワシ鼻の原住民」という戯画化なのだという。
 硬軟両面にわたる責め苦を主流社会から受けてきたマイノリティからすれば、悪しきステレオタイプ表現以外の何物でもないのだろう。
 つまりこれは、黒人にとっての「ダッコちゃん」や『ちびくろサンボ』、シャネルズ~ラッツ&スター(&ももいろクローバー)やダウンタウン浜田に通じるものなのだ、と思う。

 「チーム名よりマスコットの方が問題」である証拠として。
 エドモントン・エスキモーズという恐るべきネーミングのNFLチームもあるのだが、そのロゴは頭文字EEを象ったシンプルなもので、どこにもイヌイットを模したイラストが存在しない。それがゆえに、激烈な抗議活動に直面することなく、今に至っているのだ。 「エスキモー」というターム自体は、とっても時代錯誤なのに。
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 他者による戯画化、そしてイメージの搾取。
 問題は、その二点に尽きるのではないか。

 もちろん、先住民系ネーミングを擁護する人々――主に白人――もいる。
 彼らの主張は、たいていこうだ。
 「こういったチーム名やマスコットは、ネイティヴアメリカンの勇敢さ、ファイティング・スピリット、誇りを讃えるためのものだ!」
 ……ああ、「高貴なる野蛮人」幻想は、なかなかしぶといのである。
 妄想を膨らませ他民族を勝手に崇め奉るのは、勝者の特権でしかないのに。

 この種の幻想と縁が深いものとして、「リスペクト系レイシズム」がある。
 (このタームを考案したのはわたしだがな)
 その「リスペクト系レイシズム」なるものについて知りたければ、黒人コメディアン転じて映画監督のジョーダン・ピールが大サプライズヒットさせた人種ホラー怪作『ゲット・アウト』を見るのが手っ取り早い。4月11日(水)のBlu-ray&DVDリリースを待とう。
 もっとも、同作で「リスペクト」の対象になってエラい目に遭うのは黒人だが。

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