単行本

特別対談 未来のキム・ジヨンのために

チョ・ナムジュ×斎藤真理子

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』が日本でも10月9日(金)から公開決定!そして3月8日の国際女性デーを記念し、『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者チョ・ナムジュさんと、同書の翻訳家・斎藤真理子さんの対談をお贈りいたします。 2019年8月31日に同志社大学で駐大阪韓国文化院ほかの主催で行われたものです。

●今後の作品

司会 ありがとうございます。これからの作品について伺います。韓国では、『キム・ジヨン』後のチョ・ナムジュさんの作品は、『彼女の名前は』(2019年)や『サハマンション』(2019年5月)が出版されています。『彼女の名前は』は、2020年に日本で翻訳出版されるそうです。最新刊の『サハマンション』も斎藤さんの翻訳で出るそうですが、内容を簡単に紹介していただけますか。

チョ 『彼女の名前は』は、10代から60代の女性60人余りの方にインタビューをした28本の短編小説集です。『キム・ジヨン』は、女性ひとりの半生を描きましたが、こちらは同時代に生きるさまざまな年代の女性の人生を描いたものです。

 2019年5月に韓国で出版された『サハマンション』は、仮想の都市が舞台ですが、企業が引き取った小さな都市国家と設定しました。そこには重要な役割ができる人だけが住むことができます。そこでは認められていない、隠れて住んでいる人々の話を書きました。

斎藤 (『サハマンション』は)個性的なスタイルの近未来SF小説で、ある意味変わった小説です。『彼女の名前は』はリアリズム小説で、『サハマンション』はそれとはまたスタイルが違うので、チョ・ナムジュ先生の幅広い才能を感じていただけるのではないかと思います。それはそのまま韓国文学の多様さを体現しているような気がします。いま韓国文学は非常に多様性があると思います。『サハマンション』はディストピア小説ですが、とてもリアルな部分があります。これを読まれる方は、自分たちはこの物語のどこに置かれるのだろうという気持ちを持ちながら読み進んでいくのではないか。いま、私がそんな気持ちでいますが、とても面白いので期待していただきたいと思います。

司会 『キム・ジヨン』の映画の話も含めて、今後の作品活動についてお話しいただきたいと思います。

チョ この映画の監督は女性で、キム・ジヨンの役は82年生まれのチョン・ユミさん、夫のデヒョン役は、コン・ユさんです。この映画は希望が生まれるような作品になると思います。現在は、次回作になる短編小説を含めて、中編小説、長編小説も並行して進めています。一生懸命がんばっています。

司会 キム・ジヨン以降の作品のうちのひとつ「家出」が『文藝』2019年秋号に掲載されています。非常に面白い作品です。

 ここで、事前にいただきました質問のうち、いくつかお二人に伺いたいと思います。

 「日本のフェミニズム運動が盛り上がりに欠けることについて、何かアドバイスをお願いします。」

チョ お話をするのは少し気後れするのですが、実は、『キム・ジヨン』を全部書き終えて出版が成立したとき、少し心配でした。読者の皆さんがどのように受け取ってくれるのかなと。なぜ、こんなに気分が良くない話を書くのかと思われないかと。しかし、いざ出版してみると、多くの女性が共感してくださり、また、むしろこの本が出たのが遅いくらいだというような意見もありました。そういうご意見もあり、私は、まず現状を認知し、それを話し始めることこそがすべての始まりになると申し上げたいと思います。制度や社会風潮が変わるためには、まず話し始めないと一歩も進みません。日本のフェミニズム運動がどの線まで来ているのかわかりませんが、とりあえず現状を認知し始めることから始めましょうと、私から謹んで皆さんに申し上げます。そのあとの素晴らしい話は真理子先生にお願いします。

斎藤 私も結論は全く同じです。口に出して話すことだと思います。私は、『キム・ジヨン』を読んだ日本の男性たちの感想を聞いて、女性たちがこういう経験をしていることを全く知らなかったと聞いて驚きました。私たちはどうせわからないと思って、話をしてこなかったのだと思います。まずは口にしてみるということだと思います。

『キム・ジヨン』では、「キム・ジヨン氏は」と繰り返し書いてある。ほかの女性たちも名前を呼んでいます。これは名前を呼ぶ本です。そのことがすごく大事だと思っています。この本を読んで、自分のお母さんやお祖母さんの歴史を思い出したという人が多かったのですが、お母さんやお祖母さんはみんな名前があるけれど、家庭の中では苗字と名前で「斎藤真理子さん」とはあまり言わないわけです。でも、名前で呼んでみることによって初めてその人の歴史がわかり、問題がわかってくる。口にし続ければだんだん雰囲気が変わることもあると思います。素晴らしくない話でごめんなさい(笑)。

司会 いえ、素晴らしいお話だと思います。語り始める。名前で呼ぶ。「おばさん」とか「○○のお母さん」じゃなくて、「○○さん」と名前で呼べばよいのだと。そこからならいまからでも始められそうだと思って、ちょっとジーンとしました。いま、本を読んだ男性の価値観が変わったというお話がありましたね。

斎藤 日本では、男性の読者がとても切実に読んでくださって、韓国と少し違ったのは、「これは男が読むべき本だ」という意見もたくさんありました。その違いは、軍隊の有無によると思いますが、そのことで、改めて日本と韓国の社会の違いを見ることになったのは大きかったですね。

 

 

●価値観が変わった男性たち

司会 関連した次の質問です。「この本で価値観が変わったという男性の意見があれば教えてください」。

チョ 最初、韓国で『キム・ジヨン』が出版されたときに、たくさんの人に読まれたきっかけは、ある男性国会議員が、「この本を私たちが読まなければいけない」と全国会議員にプレゼントしたことでした。別の議員は「キム・ジヨンさんを抱き締めてください」というメッセージと共に大統領にプレゼントしました。悪口を書かれたこともありますが、若い読者がイベントに駆けつけてきて、男性の役割は何か、僕らにできることは何か悩んでいるという意見もありました。男性読者の共感や、問題を認識している意見もたくさんあります。実際に一番の変化があったのは、実は、私の夫です。家の中で、娘の育児に精を出してくれています。

司会 ありがとうございます。先ほど、キム・ジヨンが幸せに暮らしていくためには、周りが変わらねばならないとおっしゃいました。まさにそういう変化が起きてきているのかなと思います。

チョ 今朝6時に家を出発して、8:30発の日本行き飛行機に乗って、いま皆さんの前に座っています。週末の朝としては結構慌ただしい日でしたが、とてもドキドキしながら、緊張しながら日本に向かいました。皆さんも、良い意味でのドキドキした気持ちを味わってほしいと、いま考えています。これからも、現状について、私たちの周りの女性についてたくさん話し合いましょうということもお願いしたいと思います。 

斎藤 これからもチョ・ナムジュさんの多様な才能の世界がどんどん日本に紹介されると思いますので、どうぞ期待して待っていていただきたいと思います。それから、ニュースを見ると(日韓関係についてのニュースで)忙しい感じですが、こういうときは本を読んで、人と話す時間を大事にしたらよいと思いながら暮らしています。どうぞ、皆さんも安らかな時間をたくさん持っていただければと思います。

 

構成 筑摩書房編集部

 

2020年3月8日更新

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チョ・ナムジュ(趙 南柱)

チョ・ナムジュ

1978年ソウル生まれ、梨花女子大学社会学科を卒業。卒業後は放送作家として社会派番組のトップ「PD手帳」や「生放送・今日の朝」などで時事・教養プログラムを10年間担当。2011年、長編小説『耳をすませば』で文学トンネ小説賞に入賞して文壇デビュー。2016年『コマネチのために』でファンサンボル青年文学賞受賞。フェミニズムをテーマにした短篇集『ヒョンナムオッパへ』(タサンチェッパン、日本版は白水社)に「ヒョンナムオッパへ」が収録されている。 『82年生まれ、キム・ジヨン』(民音社)で第41回今日の作家賞を受賞(2017年8月)。大ベストセラーとなる。2018年『彼女の名前は』(タサンチェッパン)、2019年『サハマンション』(民音社)を刊行。photo©MINUMSA

斎藤 真理子(さいとう まりこ)

斎藤 真理子

斎藤真理子  (さいとう・まりこ)

翻訳家。訳書に、パク・ミンギュ『カステラ』(共訳、クレイン)、『ピンポン』(白水社)、チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』(河出書房新社)、ファン・ジョンウン『誰でもない』(晶文社)、チョン・セラン『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)、チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)、ハン・ガン『回復する人間』(白水社)『誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ』(亜紀書房)などがある。『カステラ』で第一回日本翻訳大賞を受賞した。

 photo:©Yuriko Ochiai

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