ちくま新書

フィレンツェの石

この世に無数に存在する石の中には、目を引く美しい模様を持つ石が多くあり、またそこには様々な物語があります。 6月刊『奇妙で美しい 石の世界』(ちくま新書)の中の一篇「フィレンツェの石」を公開いたします。 (※写真は、実際の本とはトリミング・配置が違っており、こちらでは省かれているものもあります)

 

フィレンツェ近郊で採れる風景の石「パエジナ・ストーン」。

 フィレンツェに行ったことはない。だが、私がもっとも強い関心をもち続けているのは、「フィレンツェの石」だ。
「フィレンツェの石」というと、大理石を連想する人が多いのではないだろうか。実際、フィレンツェの北西約80キロにあるカッラーラは白い大理石カッラーラ・ビアンコの産地として有名で、ローマ時代から良質な大理石を産してきた。ダビデ像などのミケランジェロの彫刻、大きなドームが印象的な大聖堂の壁面などに使われているのも、このカッラーラ産の大理石だ。現在も採掘は続いており、日本にも輸出されている。
 大理石は石灰岩の一種で、石灰岩が熱や圧力による作用で結晶質になった変成岩を指す名だ。地中海周辺からアルプス地域は石灰岩の産地がとても多いが、これはテチス海と呼ばれる太古の海の名残なのだ。
 約2億5000万年前、地球上の大陸の全てが合体してできた超大陸パンゲアの東側に、広大な沿岸部をもつ巨大な湾のような形で生まれたテチス海は、大陸が再び分裂・移動し、
現在のアフリカ大陸とユーラシア大陸が再び接触するまで、約2億年もの間、さまざまに大きさと形を変えつつ存在し続けた。赤道付近を中心に広がっていたため、浅瀬ではサンゴなど、炭酸カルシウムの骨格・殻をもつ海洋生物が多く生息し、その死骸が大量に降り積もって、後に分厚い石灰岩層を形成した。エジプト、ギリシア、ローマなどの「石の文明」は、この、柔らかく加工しやすい石灰岩の豊富な埋蔵量を背景に花開いたのだった。
 イタリアの大理石は、このテチス海由来の石灰岩層が、アフリカ大陸とユーラシア大陸の衝突による熱の作用でできたものだ。衝突によって隆起した土地がアルプス山脈となり、さらに東ではインド亜大陸がテチス海を北上してユーラシア大陸と衝突し、ヒマラヤ山脈が生まれた。インド西部のラジャスタン州では良質な大理石が採れるが、これはこの造山運動によって生まれたものだ。タジ・マハールなどの建造物に使用されている。

フィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ教会。白い部分はカッラーラの大理石を使っている。
カッラーラの大理石採石場。

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