僕はこんな音楽を聴いて育った

【後編】ぼくらにはこんな友達がいた、あんなことがあった
『ぼくはこんな音楽を聴いて育った』(大友良英著 刊行記念対談)

*いよいよ後編です。大友さんの弟子時代、「あんなことがあった」とは何だったのか? 核心に迫ります。これ、絶対読んだほうがいいです!

■褒めて長所が伸びれば短所はなくなる

大友 ちなみに、音楽を作っていて、アマチュアとやるときもプロとやるときもそうですが、プロデュースすると、良くないところを指摘しても良くならないんですよ。それよりも、良いところを褒めると、良くないところはなくなっていくんですよね。

 ネガティブなほうに目を向けちゃうと、結局ダメで。スキーの初心者が、「あっちの谷に行くとおっかないな」と思って谷を見ちゃうから、谷のほうに行っちゃうんですよ。

高橋 スキーは上手いの?

大友 いや、下手です。でも、福島だから、多少はやっていて。初心者がなぜ行きたくない方向へ行くかというと、首が向いているほうへ行くんですよ。

高橋 自分から行っちゃうわけだ。

大友 そうそう。たぶん、精神の構造もそれと一緒で、良くないところを指摘しちゃうと、そこを見ちゃうから。音楽は少なくとも、ネガティブなところを指摘して良くなる例はない。そういうことなのかな、いまのお話を聞いていると。

高橋 そうですよ。僕は大学で言語表現法という授業をやってるんです。たぶん、日本で一番優秀な文章教室ですが(笑)、そこでいちばん大切にしているやり方が、一切添削をしないことなんです。直さない。直すということは、つまり、それは良くないということでしょう。あるいは、こうすればもっと良くなると、正解に近づくということでしょう。でも、これより良い文章が本当にあるのかと疑っているので、一切手は入れずに「これはおもしろいよね」「ここは最高だよね」といって、次はまた別の文章を書いてもらう。

大友 音楽の作り方と一緒です、それ。

高橋 だよね。

大友 それが完全に近道です。

高橋 結局、大事なのは、もっといいもの、もっと楽しいものを作ることで、そこにあるものを修繕しても、そこにあるものがちょっと良くなるだけでしょう。

大友 べつに雨漏りを塞いでもしょうがないですよね。

高橋 もうね、引っ越すとか。家を建て直すほうがずっといい。

大友 家だと引っ越すのは大変だけど、音楽や文章だったら簡単に引っ越せるわけだから。

高橋 というように、もしかすると「総括」というのは、単に雨漏りを直すことなのかもしれない。なのに、僕たちはそれをすごいことだと思っているんだよ。総括したら、きっと人々が何か得るものがあるとか。

大友 思ってる、思ってる。見抜かれてるわ(笑)。

高橋 たぶんそんなに大したものじゃないんだよ。だから、『だいたいで、いいじゃない。』というのに感心したのは、僕たちはどこかで、自分を実際よりいいものだと思いたい。自分の中では解決できない大きな問題があって、これを解決しようとしている俺がいるんだと。でも、それ、ほんとかよと思うんだよね。

大友 ……ちょっと俺、きょうはカウンセリング受けたような(笑)。いま、めちゃくちゃ気持ちが楽になりました。

高橋 僕、人生相談を新聞でやっていますからね(笑)。いや、ずっと考えて、なぜうまく総括できないんだろうと。そもそも、なぜ総括しようと思っているのか。

大友 むしろ危ない可能性がありますよね。こんな総括ができるということ自体が。

高橋 それってつまり、「それはこういうことです」と、きちんと定義する。そんな危険なことを。なんかやっちゃったけど、あれ、何だっけね? でも、よく考えたらやっちゃうんだよ、誰だって。だから、それ以上考える必要はない。おしまい!

大友 いいな~。俺、そこまで気楽になかなか……。やっぱり結婚回数の違いかな(笑)。

高橋 なによ、そこかい!

大友 すみません(笑)。

                 (2017.10.20 青山ブックセンターにて)

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