SNSは自己効力感を生み出すためのエンジン ――天笠邦一
女子大で働き、社会に出る前の女性たちと接しているなかで、彼女たちに不足していると強く感じるものがある。それは「自信」「自己効力感」だ。
一見、自信に満ちている女性でも、次の瞬間も同じようにキラキラしていられるのかいつも不安と闘っている。あまり前に出ないタイプの女性であればなおさらだ。彼女たちは、本当によく周囲を見ているのだ。そして自分よりも優れている(と思われる)人に目を向け、「こんな自分なんて」と悩んでいる。結果、チャレンジは好まれず、未だに一般事務職は女子大では人気の職種だ。
彼女たちに比べれば、ゲームやアニメに熱中している同世代の男子の方が、社会や周囲に興味がない分、よほど根拠のない「自信」「自己効力感」に満ちている。事実、社会心理学分野における、国際比較論文をみても日本女性の自尊心水準は低い。
これは、女性の社会進出を考える上ではマイナスだ。自分が「できる」と信じられなければ、それに向けた努力などできない。多くの人は無駄な努力はしないのだ。そして、努力しなければ、さらなる自信を重ねるための成功(もしくは失敗)体験も得られない。この自信⇔努力⇔結果のサイクルへの動機づけが、特に女性は弱いように感じている。
しかし、そんななかでも、女性は社会に出て戦わなければならない。時代的要請により社会に押し出され、男性のようにあらゆるフィールドで働け、子どもも産めと、多様な社会的役割を求められる。こんな無理難題に応えるためには、男性中心の古い体質の残る社会の中で、何とかして自己効力感を高めなければならない。そのような環境の中で頑張る女性たちが、自己効力感を生み出すための新たなエンジンとして活用しているのがSNSであり、様々なアプリなのではないだろうか。
女性の社会進出が進み、以前より様々な能力や個性・趣味を持った女性が、世間にもまれながらも奮戦している。タイプが異なれば、それぞれ他者から評価され、自己評価を上げるための戦略は異なる。そんな多様な女性たちに、新たに生まれた様々なSNSが、それぞれ最適な自己効力感獲得の場を提供しているのだ。 このようにSNSを、女性が棲み分けながらそれぞれに合った形で、自らの努力や力を
認識し自己効力感を獲得する場として考えると、決して無視ができないSNSの特徴がある。それは、SNSは「表現の場」であり、「可視化」が利用の前提にあるという事だ。
つまり、「見える努力」に対する相性がよい。「露出」も「覗き見」もその意味では、SNS時代に女性が自己効力感を得るための一つの戦略といえるし、「筋肉」はそのためのツールとしては、「コスパ的」に最強である(一方、資格化されない学問や知識は、表現のコストが高くコスパが悪いのだ……学問受難の時代である)。
本書では、女性のSNSやアプリの使い方の類型を探る一方で、なりたい職業からみる女性の価値観について考察を行ってきた。一見、まとまりがない議論に思えたかもしれないし、ここで示したのはあくまで統計的な傾向であり、それ以上ではない。(現実は例外に満ちている)。しかし、本書を「現代女性の自己効力感獲得」のための戦略書としてみると、一本筋が通った形で理解していただけるのではないだろうか。もちろん、議論としてはまだ最初の段階で、分析が荒い部分も多々ある。是非、様々な専門家の方々による検証や議論を期待したい。