ちくま新書

これは大阪だけの問題ではない
吉弘憲介『検証 大阪維新の会―「財政ポピュリズム」の正体』ためし読み

結党から十数年のあいだに地域政党の枠を超え、国政でも存在感を見せる維新の会。公務員制度や二重行政にメスを入れる「身を切る改革」や、授業料の所得制限なき完全無償化が幅広い支持を得る一方、大阪都構想や万博、IRなどの巨大プロジェクトは混迷を極めています。〝納税者の感覚〟に訴え支持を広げる政治、そしてマジョリティにとって「コスパのいい」財政は、大阪をどう変えたのでしょうか。印象論を排し、独自調査と財政データから維新〝強さ〟の裏側を読みとく吉弘憲介さんの新刊『検証 大阪維新の会―「財政ポピュリズム」の正体』より、「はじめに」を公開します。
『検証 大阪維新の会―「財政ポピュリズム」の正体』(ちくま新書)

 2023年7月30日に行われた宮城県仙台市議会選挙で、日本維新の会に所属する5名の市議が初当選を果たした。このうち、仙台市泉区では維新の候補者が同区内でトップ当選している。仙台市に先立って行われた2023年4月の統一地方選では、首都圏でも維新が議席を伸ばし、大阪をはじめとする近畿圏の「地場政党」と言われてきた維新の会の影響力が、他の地方都市に伝播しつつあることが鮮明になった。

 自民党や立憲民主党といった既存政党の担当者は、維新の影響力が全国化することに強い警戒感を示している。国政における政権交代の議論が複雑さを増す中、民主主義による意思決定の「シャッフル」の可能性の中心にいるのは「維新の会」という組織なのではないだろうか。

 維新の会に対する支持の背景には、彼らが成果として喧伝する「身を切る改革」や私立高校の授業料無償化政策がある。また、単なる将来構想にとどまらず、政策の成果を大阪という「根拠地」から主張できるのが、他の野党と比較した場合の維新の強みといえる。

 2011年の大阪府知事選と大阪市長選、いわゆるダブル選挙の結果、大阪維新の会所属の首長が誕生した。以後、十数年にわたって、維新の会は大阪府と大阪市の地方行財政への影響力を強化してきた。一方、具体的な政策の方針は、その間一貫してきたわけではない。

 当初、「二重行政の解消」を目的にいわゆる「大阪都構想」を掲げたが、2015年、2020年の二度にわたる住民投票で、僅差ではあるものの案は否決された。とりわけ2020年の住民投票は新型コロナの感染が拡大する中で強行された選挙であった。当時の大阪市内では、大阪モデルに基づくイエローステージの最中であり、大人数イベントの実施に一定の制限がかけられていた。都構想推進を掲げる維新の会とその反対陣営が、大阪市内の人通りもまばらな夜の街で声を上げる姿は、一種異様な空気を醸していた。

 2023年現在、かつてあれほど躍っていた大阪都構想の文字を、大阪の街で見かけることはほとんどなくなった。外され忘れたポスターの色褪せた都構想の文字が、往時の熱狂を伝えるに過ぎない。かわって掲げられるようになったのが、2025年大阪・関西万博である。その奇抜なデザインから一部で物議を醸した公式キャラクター「ミャクミャク」を、大阪の街で見かける機会が増えた。しかし、工期の遅れや、人工島・夢洲の軟弱な地盤の改良工事などによって膨らむ予定建設費が足かせとなりつつある。デジタルサイネージを通じて伝えられる万博の呼称は一時「日本国際博覧会2025(大阪・関西万博)」となり、大阪・関西というキーワードは、文字通り後景に退いた。

 巨大な行政プロジェクトを掲げながら、近年、維新の会がとみに強調するのは「教育費の無償化、所得制限の撤廃」である。反面、「身を切る改革」というスローガンのもと、維新は公共サービスの膨張には否定的な姿勢も示している。教育費を無償化し、その所得制限を撤廃するという財政支出の膨張を伴う政策を主張しながら、一方で公共支出の増加を攻撃するという点で、維新を従来の新自由主義や保守/革新の枠組みで理解することは難しい。行政部門の改革や官僚組織への批判という新自由主義的側面を持ちながら、普遍主義的な教育政策という政府部門の拡大ともいえる政策を行う、維新の会の矛盾をつなぐものは何だろうか。