■ROE(自己資本当期純利益率)――資本から見た収益性(1)
投資家が企業を選別するモノサシとして、資本効率からみた収益性であるROEが重視されるようになってきました。もともと海外の投資家が好んで使う指標ですが、年金基金や投資顧問会社などの機関投資家が、長期的な企業価値の向上という観点からROEに着目した運用を強めていることなどが影響し、注目度が上がってきています。
ROE(rate of Return On Equity)は自己資本当期純利益率とも呼ばれます。株主や投資家の立場から、投下した資本がどれだけの利益を生み出したのかをみる指標で、当期純利益を自己資本で割って求めます。
自己資本とは、株主が出したお金と会社が蓄積した利益の合計で、返済する義務のない、株主のものというべき資本です。こうした資本に対してどれだけ利益をあげているのかをみるものがROEであり、株主にとっては重要な指標です。
では、ROEが高い会社とは、どんな会社でしょうか。まずは、計算式の分子に当たる当期純利益が多い場合です。当期純利益を増やすためには売上を増やすのが王道ですが、人員削減や不採算事業の撤退などのリストラを行い、コストを減らして儲けが出やすい体質にしている場合もあります。
つぎに、分母である自己資本が小さい場合です。もともと少ない資本で経営していたり、企業が自社株買いなどを通じて分母に当たる自己資本を小さくしていることもあります。
このように、ROEは分子が利益、分母が自己資本であるため、比較的大きな資本をもたなくても利益の上がる業界で高くなる傾向があります。高ROE銘柄のなかにはネット関連企業などが多くあります。ネット関連企業は一般的に大規模な設備もいらず、ビジネスの仕組みができあがればコストもそれほどかからないので、利益が出やすいためです。
こうした業態の企業は、現在のROEの高さよりも、今後の成長性を見て投資の判断をしましょう。投資家は今まで以上にROEを重視するようになってきたとはいえ、アイディア、ノウハウを活かした成長性こそが、株価を判断する際の重要な要素です。
一方、製造業で比較的高いROEを維持している企業があります。これらの企業は、製品の競争力を背景に高い収益を上げ、かつ自己資本と比べても効率的に稼げている結果として、高いROEを実現させています。その企業の強さ、資本の有効活用度合いが、ROEに凝縮されているため、こうしたケースは投資家から評価されることが多いといえます。
業績がいい、成長性があるという要素に加えて、個々の企業の自助努力や競争力などを源泉としたROEの高さも、投資家をひきつける重要な要素なのです。
ところが、日本企業全体のROEは9%と、米国企業の18%と比べると低い水準にあります(2019年6月時点)。日本企業の場合、利益を上げると内部留保に回して自己資本を積み上げる傾向があり、ROEが低く抑えられるという面がありました。将来に備えて社内に蓄えておきたいという意識のほうが、ROE重視の姿勢よりも強かったといえます。
現在では、キャッシュフローが豊富な企業や業績の好調な企業は、株主重視の観点からも、ROEを高めるために自社株を買って発行済株式数を減らし、自己資本を小さくすることを意識するようになってきました。こうした収益性を高める姿勢が日本の株式市場でも評価され、株価の上昇を通じて株主に報いることができるようになりつつあります。
ROEをみるときに注意したいのは、分母の自己資本が脆弱なためにROEが高いとか、特別利益を計上したがゆえに分子の当期純利益がかさ上げされてROEが高くなっている、というケースです。ROEをみて企業を正しく評価するためには、同業他社と自己資本比率を比較したり、利益水準を確認したりするといった目配りも必要です。