この本は、すでに日本語としても使われていたり高校の教科書に出てくるような英単語について、著者の一人である橘が、「意外だな」、「面白いな」と思った意味を集めています。なぜなら私は、自分が英文を読めない時や英語での会話についていけない時は、知っているはずの単語がなぜここに出てくるのか分からない、という状況が多いように感じてきたからです。
例を1 つ挙げると、ある新聞記事で Did somebody doctor this up? という文に出あい、前後の意味が分からなくなったことがあります。doctor には、「医師」だけでなく、「(文書等を)不正に改竄する」という動詞としての使い方もあります。この動詞用法を知っていると、上の文章はなんとなく分かります。読者の皆さんには、まずは本書をパラパラとめくって、「オッ、これは知らなかった」、「こんなのずっと前から知ってるよ」と思うものがそれぞれどれだけあるか、楽しんでいただければと思います。
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027 doctor /「医者」の動詞用法とは?
❶Did someone doctor this evidence?
『誰かが、この証拠を改竄したのだろうか?』
医者と言えば、患者を助けるいい人のイメージがあります。そのため、動詞 doctor の最も一般的な意味が「(文書や物を)改竄する、変更する」( ランク4 )であるのを知った時は、かなり驚きました。しかも、この意味で使われる doctor は、通常「悪意」ある行動を指します(❶・❷)。
❷He doctored the photo, removing the wrinkles so he would look younger.(彼は、若く見えるよう、自分の写真に顔の皺を取り除く修正を行った。)
❸He doctored the drink with a drug so his date became confused.(彼は、付き合っている女性の意識を失わせるために、飲み物に睡眠薬を入れた。)
❹She doctored the chipped plate so it looked intact again.(彼女は、あたかも欠けたことがなかったかのように、その皿の欠けた部分をうまく接着した。)
❺The Lieutenant quickly doctored the soldier’s broken leg by using a rifle as a splint.(少尉はライフル銃を添え木に使い、兵士の骨折を応急手当した。)
❸は、「薬を入れて飲み物を改変した」=「薬(毒)を盛る」の使い方です( ランク4 )。ここでの date は、「付き合っている異性」を指します。デートドラッグとも呼ばれる薬物の悪用を表現した例文です。
動詞 doctor は、❹のように「直す・修理する」という良い意味( ランク3 )で使われることもありますが、「悪意」を示す使い方の方が一般的です。
❺ は「医療行為を行う」という意味の例です( ランク3 )。この場合、医療行為を行う者は ❺のように医師以外です。医師が治療する場合は treat を用います。
動詞 doctor の語源は名詞「医者」のそれと同じで、同形異義語ではありません。英語に関する最大の辞書、オックスフォード英語辞典で調べてみると、doctor の語源はラテン語の動詞 docere(導く、教える)です。……(続きは本書にて)