みんな”普通

第8回人に好かれるための「褒め」の極意

人生を上手くいかせたいと思ったら、あること、をしよう! 異世界に転生しなくても、現世で無双状態になれるかもよ??

数年前から、世の中では「異世界転生モノ」が流行っているらしい(「いた」なのかな。おじさんなので大目に見てほしい)。主人公が今世の記憶を持ったまま別世界に生まれ変わるってジャンルで、その中に「転生チート」という言葉があるのだそうだ。こちらの世界ではごくフツーの、ときにぱっとしない主人公が、転生した世界ではめちゃめちゃ能力が高くてイージーモードで無双する。

どうしてチートな物語がウケるんだろうと知り合いに聞いてみたら、「自分も一発逆転したい、楽に生きたいと思ってる人がたくさんいるんじゃないですか」と教えてくれた。フィクションの中でくらい理不尽を感じずにいたいってことらしく、なるほどなあと思った。

 

人生うまくいかせたい。これ、人類共通の願いと言っていいと思う。苦難に満ちあふれて、やりたいことがやれなくて、ひとりぼっちで……なんて人生、ドMでもなければ普通に考えてイヤだよね。

でも、フィクションの世界に願いを投影しなくても、じつは現実そのものを変えることはできる。少なくとも、まだ若いみんなの現実を変えるきっかけは作れるし、さらにうまくいけば人生を「無双」することだってできる。

その最大の鍵は、「好かれること」だ。

身も蓋もないけど、人には好かれたほうがいいよ。好かれれば、優しくされるし人が集まる。友だちは増えるし、チャンスをもらえるし、仕事でも評価してもらえる。「みんなに好かれなくていい」とかコミュ障に耳障りのいい言葉を言ってくる人もいるけど、社会で生きてる以上、好かれたほうが有利なのは間違いない。宝くじに高額当選するよりよっぽど幸せになれるとおもう。

じゃあ、どうすれば人から好かれるか。ひとつ、とっておきの方法がある。

「褒める」だ。ビジネスの世界では「徹底的にパクる」ことを「TTP」と言うんだけど、みんなが目指すべきは「TTH」、「徹底的に褒める」だ。これぞ令和の処世術で、人生を好転させる一歩目になる。

褒めの威力はすごいよ。みんな、自分のことを褒めてくれる人のことをすぐ好きになる。シンプルにうれしいっていうのはもちろんだけど、「貴重な人材枠」に入れるのも大きい。だいたいの人は「もっと認められたい」って思ってるけど、日々そんなに褒められることってないでしょ? だから褒めてくれる人、自分の価値をわかってくれる人は大切に。

なんか感じ悪いな、僕のこと嫌いなのかなって人も、「いいね!」「さすがっす!」って褒めまくると捻挫するんじゃないかって速さで掌を返すもん。ぶっちゃけ、人間関係のトラブルは7割以上これで解決する。たとえばイヤな感じのAさんがいたら、本人じゃなくてAさんの周りの人に「Aさんってすごいっすよね」って褒める。で、その人たちから「あいつ、お前のこと褒めてたよ」ってAさんに伝わるのを待つ。Aさんの耳にさえ入れば一瞬で和解できるし、以降、めちゃめちゃ味方になってくれます。

 

実際、社会で活躍している人はナチュラルに褒めるのがうまい。手をスリスリしてゴマを擦りまくるわけじゃなくて、息をするように人のいいところを探せる。

僕の友人のヤンデル先生っていうお医者さんは褒めの達人だ。医者になる頭脳で人や作品を褒めるとこうなるのかって感心するし、外野から見てても惜しみなく称賛を送る姿は気持ちがいい。結果やっぱりいい人たちに囲まれてるし、物事のポジティブな面に目が向いて本人も幸せみたいだし、最高じゃない?

そしてもうひとり、僕の身近にいる褒めの達人といえば息子だ。僕は小学2年生の息子にも、ずっと「人を褒めよう」と教えてきた。そのおかげかわからないけど、息子は人のいいところを見つけるのが天才的にうまい。折り紙が上手な子がいれば「うまいね」、ものを貸してる子がいたら「優しいね」。なんでもインスタントに褒める。ヤンデル先生とはまた違うタイプの、褒めの達人。

あるとき学校の先生から、「優くんがみんなを褒めてくれるおかげでクラスの雰囲気がいいんです」と言われた。それはそうかもな、と思った。だって、褒められたらうれしいじゃん。朝、親に叱られてブルーだったとしてもイヤな気持ちが目減りするじゃん。みんないい気持ちで過ごせたら、あらそいだって減るじゃん。

大人の世界だと、褒めタイプの人って仕事に呼ばれるんだよね。現場の空気をよくしてくれるから。たとえトップランナーにならなくても、こういう生き方もある。

 

一方で世の中には「褒めたら負け」みたいな人もいて、こういうタイプは褒めないどころかたいてい批判癖がある。「全然よくないね」「みんなは褒めてるけどそうは思わない」としたり顔で言う人、思い浮かぶでしょ。

でも、残念ながら何かをけなしても賢く見えるわけじゃないし、好かれないだけならまだしも、ほとんどの場合「うるせえな」って相手にされなくなる。

僕は27歳のときに初めて写真の個展を開いて、ここでありがたいくらい「三流」の人たちに触れることができた。写真家って生き残るのが大変な職業だから暗くなるのもわかるんだけど、三流の人はほんとうに粗ばっかり探すんだよね。粗に対する視力だけマサイ族なの。

「あいつの写真はクソだ」って三流同士で言い合って、一流の人や自分を認めてくれない社会に呪詛を吐きまくる。ここにいたらぜったい体壊すだろっていう、どろどろの呪詛の森に引きこもる。

「人を褒めれば人生がよくなる」ってあやしい自己啓発みたいだけど、これは真理だよ。下心で褒めるなんて大人ってだせえなと思うかもしれないけど、嘘をつくわけじゃない。ちょっとでも「いいじゃん」と思ったら迷わず口に出すだけだ。呪詛の森に行く数億倍幸せになれるから、だまされたと思ってやってみてほしい。

褒めはお金と似ている。お金って使ったぶん循環して自分に戻ってきて、貯め込もうとするケチな人には入ってこないんだけど、褒めも同じ。まず自分からじゃんじゃん出しておくと、いずれ出したのよりも大きい褒めが返ってくる。若いうちにこの仕組みに気づいたら、異世界に転生せずチート状態になれるとおもうよ。

ただし。おじさんからだいじなアドバイスがあります、人の「褒め」は鵜呑みにしすぎないこと。褒められて調子に乗ったり勘違いしたりすると、どんなに才能があっても一気に伸びなくなる。

人には優しく、自分は冷静に。これもだいじな処世術だ。