ちくま新書

韓国にシャーマニズムがあったからこそ、
キリスト教大国となった

韓国にはなぜ、クリスチャンが多いのだろうか。様々な要因が考えられるが、その一つに韓国に根付いていたシャーマニズムが挙げられる。著者自身の人生と、韓国にキリスト教が広まる軌跡のシンクロを鮮やかに描き出した新書『キリスト教とシャーマニズム』の「はじめに」を公開します。

はじめに

 私は誰よりも合理的な考え方を尊重してきたと思ってきたが、今振り返って見るとどう考えても私の人生は誰かによって書かれた一つの劇のように感じられる。こんな気持ちは私だけではないだろう。誰でも自分の人生は小説にしたら何冊にもなると思うはずだ。とすれば、あなたの、そして私の人生劇の脚本は誰が書いたものか考えてしまうだろう。
 私の人生劇には多くの登場人物がいる。親、特に母、そして妻、先生、友人が数多く登場する。本書は、私が生きてきた歴史であると同時に韓国の宗教史とも言える。
 本書は私の研究書というよりは人生の物語であるが、自分自身も劇的に感じられるほどだ。このような物語が展開する人生劇の脚本を誰が書き、誰が演技指導をしたのだろうか。このように自問する時が多い。
 田舎出身である私は、シャーマニズム(巫俗)の盲信者である母の信仰は迷信だと思いこんでおり、恥だった。ところが、それが京城帝国大学教授の研究との接点となり、私自身の巫俗研究につながり、さらに日本の植民地研究に取り組むことになったのである。その下敷きになっている劇には精神生命力、すなわち「見えない霊的存在」「神の力」があると考えるしかない。
 私はシャーマニズムを身近に感じながらクリスチャンとなり、そしてシャーマニズム研究者となった。そんな私が到達した、韓国ではシャーマニズムがあってこそキリスト教が盛んとなったという状況をこの本で述べていきたい。そしてこれは、日本の事情とは大きく異なることもわかっていただけると思う。
 私の話、人生劇にしばし読者も参加していただければと思う。
 

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