金持ち父さん

『金持ち父さんの「大金持ちの陰謀」』第二回
第一部 はじめに

 パーソナルファイナンシャル部門で史上最長のロングセラーとなった、『金持ち父さん 貧乏父さん』の著者ロバート・キヨサキは、本書の執筆にあたって革新的な方法を試みた。草稿段階の原稿を章ごとに専用サイトで順次公開し、感想を寄せてほしいと広く呼びかけたのだ。本書はその双方向的なプロセスが実を結んだものであり、そのことを記念してここに冒頭部分を掲載する。

お金についての新ルールを知ろう

すでに述べたように、金持ちの陰謀はお金について二通りのルール、旧ルールと新ルールを作り上げた。ひとつは金持ちのため、もうひとつは一般人のためのルールだ。現在の経済危機を最も心配しているのは、いまだに旧ルールでゲームをしている人たちだ。

あなたが自分の将来について安心を得たいと思うなら、新ルールを知る必要がある。それはお金についての八つの新しいルールだ。本書ではそのルールと、それをあなたに有利になるように活用する方法を教える。

以下に、旧ルールと新ルールを対比する二つの例を紹介しよう。

旧ルール:お金を貯めよう

一九七一年以後、米国ドルはお金ではなく通貨になった(これについては『金持ち父さんのファイナンシャルIQ』で解説している)。その結果、預金者は敗者となった。米国政府は、預金者が預金するより速いスピードでお金を発行できたからだ。

銀行家が複利の力を絶賛する時、その銀行家があなたに伝えないことは、複合インフレの威力──あるいは今回の危機における複合デフレの威力だ。インフレとデフレは、政府と銀行が何の裏づけもなくお金を印刷して貸し付け、経済をコントロールしようとすることで引き起こされる。つまり、そのお金は、米国の誠意と信用以外に価値のあるものの裏づけは何もない。

長年、世界中の人々は、米国債は世界で最も安全な投資対象だと信じてきた。預金者は忠実に米国債を買い、それを賢明な選択だと信じてきた。二〇〇九年初頭、米国三十年債の利息は二パーセントに満たない。私にとってこれは、世界中にあまりに多くの偽金が出回っていることを意味する。預金者は敗者となり、米国債はすべての投資対象の中で最もリスクの高いものになる可能性がある。

もしあなたがその理由を理解できないとしても、気にすることはない。ほとんどの人が理解していないのだから。だからこそ学校におけるお金の教育(あるいはその欠落)が重大な問題なのだ。

お金、債券、そして負債については、本書の中でさらに詳しくお話しする。高校の経済の授業でも聞かなかったような話だ。しかしその昔、最も安全な投資対象だった米国債が今や最もリスクが高くなっていることは、知っておいて損はない。

新ルール:お金は使え、貯金はするな

今の時代、ほとんどの人は、お金のかせぎ方を学ぶことに多くの時間を費やしている。給料の高い仕事に就くため学校に通い、お金をかせぐためにその職場で長年働く。そして、得たお金を懸命に蓄えようとする。

新ルールで大切なのは、お金の使い方を知ることだ。単にかせいだり貯めたりすることではない。つまり、いつの時代も賢くお金を使う人は、賢くお金を貯める人よりも裕福になるということだ。

もちろん、お金を使うというのは投資すること、あるいはお金を長期的に見て価値のあるものに変えることを意味する。

金持ちは、今日の経済状況の中ではお金をタンスの中にしまっておいても裕福にはなれない、銀行に預けるのはさらに悪いということを知っている。金持ちは、富を得るためのカギがキャッシュフローを生む資産への投資にあることを知っている。

今の時代は、価値が持続し、収入を生み、インフレに強く、価値が上がりこそすれ下がらない資産のために自分のお金を使う方法を知る必要がある。これについては、本書を通して詳しくお話しする。

旧ルール:分散投資せよ

分散投資という旧ルールに従うと、複数の株式、債券、投資信託を購入することになる。しかし分散投資も、株価が三〇パーセントも急落し投資信託が赤字になった時には投資家を守ることはできなかった。

私は、いわゆる投資の達人の多くが、分散投資を推奨しておきながら市場が落ち込むと「売れ! 売れ! 売れ!」と叫び出す姿が奇妙に見えてならなかった。分散投資が投資家を守ってくれるなら、なぜ株価が底値に近い時に突然売らなければならないのか?

ウォーレン・バフェットが言うように、「分散投資とは、自分が何をやっているのかわからない投資家に必要なものだ」。

結局、分散投資はうまくいってもゼロサム・ゲームにすぎない。もし均等に分散したら、一方の資産が下落した時は、他方が上昇することになる。ひとつの市場で損をし、他の市場で得をするが、何の前進も見られない。同じ場所にとどまっているだけだ。その一方でインフレは進行を続ける。インフレについては、本書の中で詳しくお話しする。

賢い投資家は、分散ではなく集中・特化する。彼らは、対象とする投資分野とそのビジネスの仕組みについて誰よりもよく知るようになる。

例えば不動産に投資する際、更地に特化する人もいれば集合住宅に特化する人もいる。どちらも不動産に投資してはいるが、投資対象はそれぞれまったく異なるビジネス分野だ。

株式に投資する時、私は安定した配当(キャッシュフロー)をもたらす事業に投資する。例えば現在、私は石油のパイプラインを運営する事業に投資している。二〇〇八年の株式市場の暴落後、これらの企業の株価は落ち込み、キャッシュフローとなる配当をもたらす株が格安になった。

つまり、景気の悪い市場は、自分が何に投資しているかを知っている人間にとってはすばらしいチャンスを提供してくれるということだ。

景気の浮き沈みに対応できるビジネスを所有することや、キャッシュフローを生む資産に投資することが、株式や債券、投資信託の分散型ポートフォリオを所有するよりはるかに有利であることを、頭のいい投資家は理解している。分散投資は市場の崩壊とともに崩壊してしまう投資だ。

新ルール:お金をコントロールして集中させよう

分散投資をしてはいけない。お金は上手にコントロールして、投資を集中させることが重要だ。今回の経済危機で、私はいくつかの打撃を受けた。しかし、私の資産は無傷のままだった。それは、私の財産が市場の浮き沈み(別名キャピタルゲイン)に依存していないからだ。私はほとんどキャッシュフローのために投資している。

例えば、私のキャッシュフローは原油価格が下がった時に少し減少したが、私の資産は健全なままで、四半期ごとに郵便で小切手を受け取っている。石油関連株の価格、つまりキャピタルゲインが下がっても心配することはない。なぜなら、私は自分の投資からキャッシュフローを得ているので、利益を得るために株を売却する必要はない。

私の不動産投資の大半についても同じことが言える。私はキャッシュフローを得るために不動産に投資し、毎月小切手を受け取る。これを不労所得という。今日痛手を負っているのは、キャピタルゲインを得るために投資をした人たちで、これは土地転がしとも呼ばれている。いま多くの人々が困難な状態にあるのは、彼らがキャピタルゲインのために投資をし、株や自宅の価格の値上がりをあてにしていたからだ。

私が子どものころ、金持ち父さんは彼の息子と私を相手に、何度も何度もモノポリーをして遊んでくれたものだ。このゲームをすることで、私はキャッシュフローとキャピタルゲインの違いを知った。

例えば、緑色の家が建っている土地をひとつ持っていたら、私は賃料として毎月一〇ドルの収入を得る。もし同じ土地に三軒の家を持っていたら、私は賃料として毎月五〇ドルを受け取ることができた。そして、最終目標は、同じ土地に赤い色のホテルを一軒所有することだった。モノポリーに勝つには、キャピタルゲインではなくキャッシュフローのために投資をしなければならない。

九歳にしてキャッシュフローとキャピタルゲインの違いを知ったことは、金持ち父さんが教えてくれた最も重要な授業のひとつだったといえる。言い換えれば、お金の教育は楽しいゲームと同じくらいシンプルでありながら、末代にわたって経済的安定をもたらしてくれるものになりえる。経済危機の時代においてもその安定が損なわれることはない。

現在、私には安定した仕事は必要ない。なぜなら経済的安定を手に入れているからだ。経済的安定と経済的危機との違いは、キャピタルゲインとキャッシュフローの違いを知るのと同じくらい単純なものだ。

問題は、キャッシュフローのための投資が、キャピタルゲインのための投資に比べて高度のファイナンシャル・インテリジェンスを必要とすることだ。キャッシュフローのために賢く投資する方法については、この本の中でさらに詳しく説明する。

しかしここでは次のことだけは覚えておいてほしい。経済危機の最中のほうが、キャッシュフローのための投資は容易だということだ。だから、現状から目を背けてこの危機という名のチャンスをムダにしてはいけない! この危機が長く続けば続くほどますます金持ちになる人もいるだろう。あなたがそのひとりになることを願っている。

今の時代の新ルールのひとつは、あなたの頭とお金を分散せずに集中することだ。キャピタルゲインよりもキャッシュフローに集中するほうが見返りが大きい。なぜなら、キャッシュフローをコントロールする方法を知れば知るほどキャピタルゲインも増えることになり、経済的安定を高めることもできるからだ。大金持ちになることさえできるかもしれない。

それが、モノポリーと私の教育ゲームである『キャッシュフロー』が教えている基本的なお金の教育だ。『キャッシュフロー』ゲームのことを、モノポリーが内容を高度に増強してパワーアップしたようなゲームだと評する人もいる。

「貯めるのでなく使うことを学ぶ」「分散ではなく集中する」という二つの新ルールは、本書で紹介する八つの新ルールのうちの二つだ。これらについては後の各章でさらに詳細に説明する。この本の目的は、適切な教育を受ければ自分の将来の経済状態はコントロールできるということに対して、あなたの目を見開かせることだ。

私たちの教育制度は、教養のある人も含めて何百万もの人々を裏切ってきた。私たちの経済システムが、あなたを含む大勢の人々に対して陰謀を企ててきた証拠がある。しかし、それはすでに遠い過去の歴史だ。今は、あなたが自分の将来をコントロールする。まさに今こそ自分自身を教育する時、お金についての新ルールを自分自身に教え込む時だ。そうすることによって、あなたは自分の運命をコントロールし、新ルールに従ってマネーゲームをするカギを握ることになる。

読者の感想
あなたの本を読んでいる人のほとんどは、何らかの万能薬のような解決策を求めているのだと思います。それが、すぐにごほうびを欲しがるというアメリカの現代社会の習慣になっているからです。すべてを解決できる万能の本など存在しないことを人々に知らしめるという点で、あなたは良い仕事をされていると思います。お金に関する新ルールを解説することによって人々にしみついている考え方を正し、どのように考えればよいかについて素晴らしいお話をされています。─apcordov

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