「フリーランス」というといかにもかっこよく聞こえるが、「一人親方」というとなんだか垢抜けない印象だ。でも両者は同じものを指している。他人(会社)に雇われるのではなく、自分一人で社長とヒラを兼務して働いている人、個人自営業主のことだ。昔から建設業の一人親方とか運輸業のトラック持ち運転手というのは多かったが、最近は情報通信技術が発達して、ネットを介して仕事をするクラウドワーカーとかギグワーカーというのが世界的に増えてきた。その働き方の実態は、自営業主だといいながら雇用労働者以上にひどいものも少なくない。「はじめに」にたくさん事例が並んでいる。彼らをどう守るか、というのが本書のテーマだ。
昨年成立したフリーランス新法というのは、(若干労働法風味の保護規定も盛り込まれているけれど)基本的には公正取引委員会と中小企業庁が競争法を使って彼らを守ろうという法律だ。彼らは労働者ではなく個人事業主なんだから、労働法じゃなくて競争法がしゃしゃり出てくるのは当然だろう、と思うかもしれない。けれど、著者はそれに疑問を呈する。今の世界の大勢は、彼らの「労働者性」を認めて、労働法を適用しようという方向に向かっているのだ。最近の欧米の裁判例はみな労働者性を認めてきているし、とりわけ五要件のうち二つを満たせば労働者だと推定するEUのプラットフォーム労働指令案が成立間近なのだ、と。
その気持ちには同感するところが多いのだが、認識がやや前のめりになっていないか気になる。実は、(本文に書かれているように)昨年一二月一三日にEUの議会と理事会が暫定合意したというニュースが流れたが、翌週二二日には理事会でひっくり返ってしまったのだ。それを先導したのはフランスのマクロン大統領だという。フランス政府は彼らが労働者でないことを前提に労働法風の保護を付け加えるという国内政策を進めていて、労働者性の拡大路線には反対であり、少なからぬ加盟国がそちらに加担したというわけだ。今年に入ってからも妥結の試みが進められているが、先行きはまだまだ不透明である。
UberEatsやamazon配達員など、アプリで仕事を請け負い、働きたいときだけ仕事をする、ギグワーカーと呼ばれる働き方が注目されています。時間にとらわれず、決められた職場もないその働き方は、一見とても自由そうに見えます。しかし、単発で業務を委託される個人事業主(フリーランス)は労働法上の「労働者」ではないため、労災保険が適用されず、最低賃金や長時間労働の規制対象にもならず、失業時の補償もありません。多くのリスクにさらされる人々を守るための枠組みを考える、橋本陽子さんの新著『労働法はフリーランスを守れるか―これからの雇用社会を考える』。労働法政策がご専門の濱口桂一郎さんによる書評を、『ちくま』4月号より転載します。