昨日、なに読んだ?

File17. 松江哲明・選:どんな時も手放せない本

清水潔『「南京事件」を調査せよ』、『高橋ヨシキのシネマストリップ』、長谷川摂子(著) ふりやなな(イラスト)『めっきらもっきら どおんどん』

紙の単行本、文庫本、デジタルのスマホ、タブレット、電子ブックリーダー…かたちは変われど、ひとはいつだって本を読む。気になるあのひとはどんな本を読んでいる? 各界で活躍されている方たちが読みたてホヤホヤをそっと教えてくれるリレー書評。 【松江哲明(映画監督)】→小林直己(EXILE/三代目 J Soul Brothers)→???

 本は幼い頃から好きだった。保育園へ通う代わりに、母は絵本の教室に連れて行ってくれた。運動場よりも図書館が好きで、開館から閉館までこもっているような子どもだった。その習慣は今も変わらず、少しでも時間があれば活字を追う。映画館でも何度も観た予告編ならばその最中も薄い光を頼りに本を読む。タブレットには断固反対だったが、一度手にした時、あまりの読みやすさと、大量に保管できることに驚き、今では購入する本の半分は電子書籍となった。

 清水潔『「南京事件」を調査せよ』(文藝春秋)は電子で読んで後悔した一冊だ。NNNドキュメントで放送された番組も丹念に事実を積み重ねる構成に感動させられたが、この本には圧倒された。番組の前後も含めて書かれていることで、南京事件を今、取り上げることがいかに覚悟を必要とされるのかが、映像よりも伝わってきたからだ。事件自体を否定する論調に対し、感情的になることを抑え(それでも清水氏の憤りは十分に伝わる)、現在に残された資料と向き合うことで、なぜこの南京事件から目をそらしてはいけないのかを問う。それは人は人を殺すことが可能で、命令に従うことが想像以上に簡単な生き物だからだ。そして清水氏が繰り返し記すように、裏を取るということの重要さも忘れてはならない。それは「なぜこんな出来事で炎上しているのだろう」と思わされることが多々ある現状が証明している。個々がメディアとなれる時代だからこそ、そう思わされる。

 仕事としてだけでなく、映画好きとしても映画に関する本は多く読んでいる。観ている本数はかなり多い方だが、それでも「僕の知らない映画はこんなにもあるのか」と思えるのは、驚きと同時に嬉しさもある。高橋ヨシキさんもそんなことに気付かさせてくれる一人だ。最新刊『高橋ヨシキのシネマストリップ』(スモール出版)は比較的有名な作品が取り上げられていることもあり、紹介されているほとんどを観ていたが、それでも読む楽しさと「また観返してみよう」と自分に約束したくなる本だった。その理由は高橋さんの視点には僕とは異なる発見があり、自分の好きな映画を語る喜びが伝わってくるからだ。特に何度も挙がる『死霊のはらわた』への愛が深い。人によってはこのタイトルだけで眉をひそめるかもしれないが、本作は若きサム・ライミ監督による「映画で世界を驚かせよう」という思いがこもっていて、それに成功した数少ない作品だ。ヨシキさんは映画を差別しない。スクリーンに映る以上、それらは平等であり、どんなジャンルであっても「映画を観る喜び」があるかを判断する。僕が信頼する映画についての書き手とはそういう人のことだ。それは140文字で伝えられるようなエネルギーではない。本書はNHKラジオの『すっぴん』を元に構成され、冒頭でもその戸惑いと覚悟が書かれているが、映画に必ずしも興味があるわけではない老若男女にも届く映画愛は、黒と赤が基調のデザインや明朝体が目立つヨシキさんの他の本とは違う魅力がある。本書には「やさしさ」があふれている。

 『シネマストリップ』はぜひ息子にも読ませたい本なのだが、彼は今はまだ絵本に夢中だ。本棚から選び、読むのをせがんでくるのが父としては嬉しい。長谷川摂子(著)・ふりやなな(イラスト)『めっきらもっきらどおんどん』(福音館書店)は『山田孝之のカンヌ映画祭』で出会った芦田愛菜さんに薦められた一冊だ。僕は一読して、2歳になったばかりの息子にはまだ早いかなと思ったが、おかしな日本語のタイトルや「しっかかもっかい」「もんもんびゃっこ」といった言葉が面白くて仕方がないらしく、僕の膝の上で目を丸くしている。そういえば僕が幼い頃に読んだ本たちも、対象年齢を無視したものばかりだった。内容が完全に理解できなくても、絵が面白かったり、文章が魅力的であれば勝手に読み進めていたものだ。息子にもそんな行動を期待して、本棚に僕の好きな本たちを並べている。

 彼が『はてしない物語』を手にするのはいつだろうか。

         次回、小林直己さんは9月27日更新予定です。

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