昨日、なに読んだ?

File28. 佐久間宣行・選:カッコ悪いのに、カッコよい本

岡宗秀吾『煩悩ウォーク』

紙の単行本、文庫本、デジタルのスマホ、タブレット、電子ブックリーダー…かたちは変われど、ひとはいつだって本を読む。気になるあのひとはどんな本を読んでいる? 各界で活躍されている方たちが読みたてホヤホヤをそっと教えてくれるリレー書評。 【佐久間宣行(テレビ東京のプロデューサー、演出家)】→Aマッソ・加納(お笑い芸人)→???

 僕はテレビの景気の良かった頃を知らない。

 大学を卒業した1999年にはもう不況の風は吹いていたし、そもそも入社した局が最下位の小さな会社だった。ADを始めて最初に先輩ディレクターに言われたのは「うちはキー局じゃないからね。お金かかる番組は作れないから」だった気がする。

 当時のテレビ東京は、お笑い番組も自社制作のドラマも殆どなかった。これは入社してから知ったのだけど、人気番組と言われた「ASAYAN」とか「なんでも鑑定団」とか「アド街ック天国」は外部の制作会社が作っていた。なのでディレクターとしては入れない。入社一週間で絶望したのを覚えている。

 そこから僕や先輩たちは全くノウハウのないドラマやお笑い番組作りを手探りで始めていく。そのとき出会って力を貸してくれたのが、実力はあるけどまだ無名のディレクターや作家の人たちだ。それは今ではヒットメイカーの大根仁さんや第三のバナナマンなんて呼ばれるオークラさんとかがそうだ。そして、その中でひときわ強烈な印象が残っているのが、この本の著者である岡宗秀吾さんだ。

 岡宗さんの作る番組はとにかく面白い、そして熱い。「全日本コール選手権」「とにかく金がないTVとYOU」「BAZOOKA!!!」そしてその中の「高校生RAP選手権」なんて特にそうだ。凄くくだらなくて尖ってるのに、見終わると胸がセンチメンタルと焦りみたいなので溢れてくる。そういうバラエティを作れる人は多くない。どんな青春でも肯定しているというか、優しい。

 なので、そんな番組を作れる岡宗さんにずっと興味があった。たまにラジオとかに出てては話すオカルトエピソードも強烈に面白いし、芸人からラッパーまで異常に人間関係も幅広い。しかし謎な人だな……と思っていたところにでたのがこのエッセイ集『煩悩ウォーク』だ。

 『煩悩ウォーク』は岡宗さんが何かしたいけど何もできてない10代から、今はもう有名になっているラッパーたちとつるんでいた20代、そしてテレビの世界に入って自分の番組を作るまでの半生を丹念に綴った本……とかでは全く無くて、その中からバカみたいにくだらない鉄板エピソードをゴリゴリ書きなぐったエッセイがてんこ盛りの本だ。ボーイスカウトで出会ったオカルト少年、地方ロケでAD時代に地獄を見た話、ダイヤルQ2の超怖い思い出、そして涙と笑いと得体の知れない感情が湧いてくる阪神大震災体験記。そのどれもが岡宗さんの人間味が引き寄せるワンアンドオンリーのエピソードだ。

 全部面白いけど、特に僕は岡宗さんと妹さんが10代の頃に大好きなブランキージェットシティのトークイベントに行った時の話が大好きだ。短いけど、愛とペーソスがある。

 この本を読み終えて最初に思う言葉は、恥ずかしいけど “青春”だ。一冊の本の中にたくさんの青春の始まりと終わりがある。どんな番組を作っても青春がテーマになってしまう岡宗さんの書いた本は、やっぱり青春まみれの本だった。だから、人にすすめるのは少し照れくさい。けど、この本を読んで笑いながらも救われる人がたくさんいる気もする。なので、ここにひっそりと書いた。少なくとも凡百のティーンムービーにはかなわないカッコ悪さとカッコ良さがこの本にはあると思う。

 ちなみに、別に岡宗さんと僕はそんなに仲いいわけではない。一度だけ特番を作っただけで、それも結構ぶつかって企画は二転三転した。結果的に凄く面白かったからいまでも笑顔で話せるけど、つまらなかったら最悪だったな。マジで。あ、でもその番組はいまでもまたやりたいです。誰かまたやらせてください「有吉の相談バカ一代」

 

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文藝春秋

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