昨日、なに読んだ?

File60. 突然、加齢とその先にある死について考え始めた時に読んだ本

みうらじゅん、リリー・フランキー 『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』

紙の単行本、文庫本、デジタルのスマホ、タブレット、電子ブックリーダー…かたちは変われど、ひとはいつだって本を読む。気になるあのひとはどんな本を読んでいる? 各界で活躍されている方たちが読みたてホヤホヤをそっと教えてくれるリレー書評。


 僕は現在40代です。年齢を重ねるほどに、自分が加齢という流れに乗っている、悲しき事実が意識化されるようになっている気がします。加齢の流れとはつまり時の流れなので、生まれた瞬間から誰にでも共通していることのはずですが、少なくとも20代中盤くらいまではそんなことは全く意識することがありませんでした。むしろ、社会人になるまで、そしてなってからも、はじめてのことが多く分からないことだらけで、思い返せば色々なことを覚えたり学んだりするのに必死だったと思います。まぁ、分からないことが多いのは今も大して変わっていないのですが、色々な分からないことと対峙するという経験を繰り返すうちに、分からないなりに少し時間をかければ慣れてくるものだ、といった余裕は比較的持てるようになってきているように思います。

 こう書くと、これからもっと余裕が持てるようになって、いよいよ人生が充実していくという希望が湧いてきそうです。しかし、実感としては、自分史上で未曾有の不安が生じていくのを感じています。順調に忘れっぽくなったり、駅の階段を駆け上がる時に前よりもスムーズではなくなっていたり。まだそんなものですが、この先こうして、徐々に、確実に、身体機能は衰え、記憶力や集中力が低下していくという喪失の体験が増えていくのではないでしょうか。喪失といえば、まだまだ勉強中の身の自分には想像できませんが、仕事で世代交代があったり、定年退職したり、子供がいる人は子供が巣立ったりすることもそれにあたるかもしれません。NBAをみてください。NBAで活躍している八村塁選手、渡邊雄太選手は20代で、八村選手なんて、ほとんど僕の半分くらいの年齢です。NBAを観て必死で応援しながら、「俺は年齢だけハチムラのダブルスコアか……」などという考えが頭をかすめることも少なくありません。なんて滑稽なんだ。こういった喪失の体験が積み重なった先に待っているのは死です。いや、そりゃ、そうなんだけど、改めて想像してみるとなんて恐ろしい今後なのでしょう。

 突然、極端に加齢とその先にある死について考え始めたのは、自分の変化を感じ始めたことに加えて、精神医療の専門誌の中で、高齢者の精神医療と訪問診療というテーマの原稿を書くために加齢について調べたからです。加齢についての医療的な視点は非常にドライで、前述したような、機能の喪失や社会的に少しずつ孤立していくことについて淡々と書かれていました。そんなもの、不安になるに決まっているじゃないですか。そんな時に、僕のそんな境遇を知らない友人からなんとなく勧められたのが『どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか』(みうらじゅん、リリー・フランキー著/新潮文庫)した。

 著者のおふたりをみれば、面白くないはずがありません。40年以上エロスクラップを続けたり、サラ金地獄を経験済みだったりするふたりの賢人の対談。存分に下ネタや駄洒落が混じりながら、人生、人間関係、仕事、生と死などにまつわる細かいテーマについて、軽やかに、自在に、そして真摯に語られます。

 動物の中で人間だけが死ぬことをわかってて生きる、それは苦行だ、と言いつつ、その死を「死ぬっつーじゃないですか」とお軽く捉えてみる。生まれたら余生、とか、人生の本業は仕事じゃなくて生きることそのもの、とか、外見については生まれた時に選べないボディスーツを着てるようなもの、など、僕にとってエポックメイキングな考え方に満ちた対談を読むうちに、だんだん死に向かっていくのが怖い、ではなく、とりあえず死ぬまではなるべく楽しく生きてみよう、と思うことができました。

 そういえば、僕が訪問診療で出会う高齢の人たちも素敵な人が多いです。最近一番胸が熱くなったのは、お会いするたびに最近の様子を手紙でくださる八十代後半の女性。

「毎日、友人の老婆三人と散歩のために待ち合わせしています。三ミーツです。それから、私には酔眠薬は欠かせません」

 三ミーツは、今の時世に響きまくる一撃でした。そして、睡眠薬を「酔眠薬」と書くのはもしかしたら誤字かもしれませんが、薬物療法主体の昨今の精神医療を風刺しているようでした。

 加齢は思っているより怖いことではないのかもしれません。生きていれば絶対に誰にでも訪れることなのだから、潔く受け入れるというか、加齢とともに生きていく方が楽しそうです。それを実践していくことが、生きるということなのかもしれません。物事を考えすぎてしまうような時に、また読み直したい一冊でした。

 

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新潮社

605.0

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