世界の「推せる」神々事典

マウイ【ポリネシア神話】
――典型的トリックスターの末っ子

神話学者の沖田瑞穂さん連載! 世界の神話に登場する多種多様な神々のなかから【主神】【戦神】【豊穣神】【女神】【工作神・医神】【いたずら者の神/トリックスター】【死神】を解説する企画です。あなたの「推し」神、どれですか?! 今回はポリネシア(ニュージーランド)神話の神から。

◆いたずら者の神々【トリックスター】/男神

マウイは、半分は人間で、半分は神であった。マウイが生まれたとき、父親が不老不死の命を与える呪文を間違えたので、神になり損ねた。未熟児のため、母タランガが、髪の毛にくるみ海に捨てた。祖先に救われ、母と再会した。

マウイに関しては、太陽の運行を遅くした話、島を釣りあげた話、火をもたらした話、不老不死獲得に失敗した話などがある。

◆太陽を罠にかける

マウイの四つの話をまずは順に見ていこう。最初は、マウイが太陽の運行を遅くした話だ。

世界のはじまりの頃、太陽は駆け足で空を渡っていた。そのため昼間がとても短く、夜がとても長かった。そんな時にマウイが生まれて育った。マウイはとても賢い子供であった。マウイは、太陽をなんとかして遅くしようと決意した。

マウイはロープで罠を作ると、兄たちと共にそれをしかけた。太陽は罠から逃れることができなかった。マウイは太陽をなぐったので、痛めつけられた太陽は、その後、空の道をゆっくり歩くようになり、昼間の時間が長くなった。

◆人が火を自在に使えるようになったのは……

次に、島を釣りあげた話がある。マウイと兄が釣りに出た時、マウイは年老いた女神からもらった、あごの骨で作った釣り針を持って行った。漁場で、マウイはその釣り針を海に入れた。すると、釣り針にかかったのは島であった。

マウイは、人間がいかにして火を自在に扱うことができるようになったかについても責任を持っている。

ある日、マウイはいたずら心を起して、夜の間に村中の火を消して回り、新しく火をもらうため、祖先の女神マフイカのところに赴いた。マウイはマフイカに懇願し、火を分けてもらったが、帰路につくとすぐにその火を消してしまい、再びマフイカのところに戻って火をもらった。マフイカは、爪に火を隠していたので、爪とともに火を与えた。

マウイは火をもらって帰路についたらすぐにそれを消して、マフイカのところに戻ってまた火をもらう、ということを何度も繰り返した。マフイカは手の爪を使い果たし、足の爪も、あと一本を残すのみになった。ここに至って、遅くもマフイカはマウイが自分をからかっていることに気づき、最後の爪の火を地面に放って火の海にしてしまった。

マウイは逃げながら、雨の神タフィリを念じた。すると雨が降り、火は消えたが、世界から火がなくなってしまったかのようだった。しかし火は乾燥した樹木の中に入り、人々はそれらを摩擦することによって、それ以後、自由に火を使うことができるようになった。

◆世界の秩序としての人間の死

次に紹介するのはマウイの最後の冒険である。マウイは半分は神で半分は人だったので、不老不死を得て本物の神になりたいと思った。そこで彼は死の女神ヒネ・ヌイ・テ・ポのもとへ行き、その脚のあいだから体内に入って口から出ることで、死の運命から永遠に解放されると考えた。

マウイは鳥たちをお供に大女神のもとへ行き、鳥たちに「決して笑うな」と言っておいて、芋虫の姿になって女神の胎内に入ろうとした。すると孔雀鳩という鳥が、我慢できずに笑ってしまった。女神は目を覚まし、芋虫のマウイをかみ殺してしまった。こうしてマウイは死に、人間も永遠に死から逃れられないことになった。

マウイは典型的なトリックスターである。そのいたずらによって、意図せずに、世界の秩序を作り出している。太陽の運行を、いまそうであるように遅くし、島を作り、火を、人間が自由に手に入れられるようにし、そして人間の死の運命という「世界の秩序」を定めた。いたずらもののマウイはこれらの大事業を成し遂げて、そしてあっけなく死んでいったのだった。

(参考文献;アントニー・アルパーズ編著、井上英明訳『ニュージーランド神話』青土社、1997年)

関連書籍

沖田 瑞穂

世界の神々100 (ちくま新書, 1774)

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