私どもトラジでは、「食文化を通じ、お客様を幸せにする企業」を理念とし、焼肉店
の経営を、「ビジネス」というよりも「異文化交流」のような切り口で考えています。
その理念を徹底させるために、社内に「焼肉大学」という研修施設を設け、従業員教
育に努めております。本書の著者・鄭大聲顧問には、焼肉大学の「焼肉・韓国食文化」
コースをお願いしており、まさにこの本に書いてあることを、お話しいただいておりま
す。「異文化交流」に欠かせない内容ですので、鄭先生のコースは、トラジに入社した
新入社員全員に受講させています。そして、このコースを受け、この本を読んだからお
客様の質問に答えることが出来た、と喜んで報告してくれる従業員もおります。
焼肉店のない町はないというほど、日本の社会には焼肉文化が根付いております。また、トラジにも焼肉好きが高じて入社してくる社員がいます。しかし、焼肉のメニュー
の一品一品の歴史的背景となると、ベテランの焼肉店経営者でも、焼肉通の方でも知ら
ないことが多いのではないでしょうか。
誰もが知っている、定番焼肉メニューの一つ一つは、ある日突然、偶然に出来上がっ
たものではありません。長い歴史の中で、人々の生活の知恵が積み重なって生み出され
たものです。たとえば、なぜユッケには赤身肉が使われているのか、ということも、ユ
ッケが生まれた頃の牛の肉質を考えると、合点がゆきます。
カㇽビ、ハツ、センマイ刺し、キムチ、カットゥギ、ナムㇽ、コムタン、テグタン
等々、それぞれの料理には誕生の秘話があり、定番メニューとして定着しているのには
わけがあります。この本を読んで歴史的・文化的背景を知ると、焼肉がもっと美味しく、
楽しく感じられるのではないでしょうか。
さらに私は、焼肉は「味も栄養も王様だ」と考えています。ひとびとの暮らしの知恵
から生まれた料理は、美味しいのはもちろんのこと、科学的に見ても素晴らしい価値を
持っています。鄭先生は理学博士でらっしゃいますが、私は「焼肉大学」の授業で、焼
肉料理の健康にもたらす効果が世界的に認められていることを知りました。ワカメスー
プやニンニク、サンチュの項目を読んで、料理の持つ意外な効能に驚く方もいらっしゃ
ると思います。
焼肉料理を単に楽しむのもよいですが、この本を読んでから、また読みながら食べる
と、いままでとは違った味わいを口中に感じることと思います。私もそう感じた一人で
すので、請け合います。本書はこれからも焼肉の教科書の決定版として読み継がれるこ
とでしょう。