82年生まれ、キム・ジヨン

『82年生まれ、キム・ジヨン』、『ヒョンナムオッパへ――韓国フェミニズム小説集』刊行・著者来日記念トークイベント
チョ・ナムジュ×川上未映子×斎藤真理子×すんみ 

『82年生まれ、キム・ジヨン』の著者チョ・ナムジュ氏来日を記念して、チョ・ナムジュ氏×川上未映子氏の対談が、斎藤真理子氏、すんみ氏を交えて、2019年2月19日(火)、新宿・紀伊國屋ホールで行われた(筑摩書房・白水社・紀伊國屋書店・韓国文学翻訳院 共催)。  韓国文学と日本文学における社会問題の影響、「正しさ」についてという話題から「オッパ」「主人」という恋人や夫の呼称についてまで、大変刺激的なトークイベントとなった。(通訳:宣善花(ソン・ソナ)、延智美(ヨン・ジミ))

韓国の読者の反響

斎藤 ここでいったん、すんみさんに、韓国の女性読者たちはこの本をどう読んだのか、ご自分の感想も交えて紹介していただけますか。この本を読んで泣いてしまったという日本の読者が多いのですが、韓国ではどうなのか、わかる範囲でよいので、お願いします。

すんみ まず、私の感想からお話ししたいと思います。私は、韓国から日本に戻る飛行機の中で読んでいて、着いてすぐ友達に「この本、読んでみて」と連絡しました。飛行機を降りて、すぐにケータイのスイッチをつけて。それぐらい、誰かにこの本を読んでもらいたい気持ちがありました。
 後から、なぜこの本を読んでもらいたかったのかなと思ったのですが、私は読んでいて、こういうところが自分にすごく似ている、自分もこういう経験をしている気がする、と思ったのですが、果たしてほかの人たちもこのように共感できるのか、それがすごく知りたかったんですね。
 実際、みんな「自分の話なんじゃないかと思った」と言っていました。私もいま9カ月の子供を育てているし、周りにも、仕事を辞めたり、休んだりしている育児中の友達がたくさんいるのですが、そういう友達も、すごく共感できると言っていました。
 では、これがほかの人たちの感想とすごく近いところがあるのではないかと調べてみたら、やはりみんな読んでから友達に勧めているんですね。それが、100万部売れた理由でもあるのかなと思いますけど、みんな、この本をプレゼントしているんですよ。

斎藤 「読んでみて」というのではなくて、本を買って?

すんみ ぜひ読んでもらいたいので、勧めるだけじゃなくて本を贈っているんです。最近は韓国だと、ネットで買って友達の家に届けることができるので、住所を聞いて送ったり、自分で買って母に贈ったり、妹に贈ったり。

斎藤 日本でもそういう声はいくつかありましたね。お兄さんが妹に読ませたいと思ったとか。でも、韓国のほうが、直接プレゼントする人が多そうですね。

すんみ 韓国の人たちは熱いので(笑)。それだけじゃなくて、ただ「読んでみて」と言うのでは物足りないのか、そこに自分の話を付け加えるんですよ。「私はここで、こういうところに共感して、自分はこういう経験をしたけれども、あなたはどうなのか」と、自分の感想を付け加えているんです。
 先ほど、川上さんが典型的な話で構成されているとおっしゃいましたが、そのとおりでいわゆるテンプレみたいな小説ではないかなと思いました。
 例えば、私が日本に来て初めて正式なメールを書こうとしたときに、日本はメールに型がありますよね。それがわからなくてネットで調べました。テンプレの文章を探して、それをちょっといじりながらメールを完成させた記憶があります。
 そういう感じで、キム・ジヨンの話をもとに共感できる話を残したり、自分がちょっとわからないところを取ったり、自分だけが経験しているものを入れたりしながら、自分の物語を完成させていくツールになっているのかなと思います。
 日本でもそうだと思います。『82年生まれ、キム・ジヨン』を読んで自分の話をブログなどに書いている人がすごく多い。自分の経験と、ほかの人の話を聞いてみたいと思わせる力があって、それがこの本の韓国での人気の理由になったんじゃないかなと思いました。

斎藤 漠然と話をするより、何か型があって、それを巡って話すと物語の交換がしやすいということですね。

すんみ そうです。韓国の人たちは、これを読んで泣いたという人もいますが、泣いたというより、「私と同じ経験をした人、いない?」という具合に、すごく前のめりになっている感じがあるのかなと思いました。

2019年4月1日更新

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チョ・ナムジュ(趙 南柱)

チョ・ナムジュ

1978年ソウル生まれ、梨花女子大学社会学科を卒業。卒業後は放送作家として社会派番組のトップ「PD手帳」や「生放送・今日の朝」などで時事・教養プログラムを10年間担当。2011年、長編小説『耳をすませば』で文学トンネ小説賞に入賞して文壇デビュー。2016年『コマネチのために』でファンサンボル青年文学賞受賞。フェミニズムをテーマにした短篇集『ヒョンナムオッパへ』(タサンチェッパン、日本版は白水社)に「ヒョンナムオッパへ」が収録されている。 『82年生まれ、キム・ジヨン』(民音社)で第41回今日の作家賞を受賞(2017年8月)。大ベストセラーとなる。2018年『彼女の名前は』(タサンチェッパン)、2019年『サハマンション』(民音社)を刊行。photo©MINUMSA

川上 未映子(かわかみ みえこ)

川上 未映子

1976年8月29日、大阪府生まれ。2007年、デビュー小説『わたくし率イン 歯ー、または世界』が第137回芥川賞候補に。同年、第1回早稲田大学坪内逍遥大賞奨励賞受賞。2008年、『乳と卵』で第138回芥川賞を受賞。2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で第14回中原中也賞受賞。2010年、『ヘヴン』で平成21年度芸術選奨文部科学大臣新人賞、第20回紫式部文学賞受賞。2013年、詩集『水瓶』で第43回高見順賞受賞。短編集『愛の夢とか』で第49回谷崎潤一郎賞受賞。2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞受賞。「マリーの愛の証明」にてGranta Best of Young Japanese Novelists 2016に選出。他に『すべて真夜中の恋人たち』や村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。『早稲田文学増刊 女性号』では責任編集を務めた。最新刊は短編集『ウィステリアと三人の女たち』。

斎藤 真理子(さいとう まりこ)

斎藤 真理子

斎藤真理子  (さいとう・まりこ)

翻訳家。訳書に、パク・ミンギュ『カステラ』(共訳、クレイン)、『ピンポン』(白水社)、チョ・セヒ『こびとが打ち上げた小さなボール』(河出書房新社)、ファン・ジョンウン『誰でもない』(晶文社)、チョン・セラン『フィフティ・ピープル』(亜紀書房)、チョ・ナムジュ『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)、ハン・ガン『回復する人間』(白水社)『誰にでも親切な教会のお兄さんカン・ミノ』(亜紀書房)などがある。『カステラ』で第一回日本翻訳大賞を受賞した。

 photo:©Yuriko Ochiai

すんみ(すんみ)

すんみ

早稲田大学大学院文学研究科修了。訳書に『あまりにも真昼な恋愛』(キム・グミ 晶文社)、『屋上で会いましょう』(チョン・セラン、亜紀書房)、共訳書に『北朝鮮 おどろきの大転換』(リュ・ジョンフン他、河出書房新社)、『私たちにはことばが必要だ』(イ・ミンギョン、タバブックス、小山内園子と共訳)などがある


 

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